JR西「ブラジル鉄道事業」出資5年で何を得たか リオの都市鉄道に参画、日本との違いに驚き

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リオデジャネイロはサンパウロに次ぐブラジル第2の都市で人口1600万人。コパカバーナ海岸など観光都市としても知られるが、治安は悪い。殺人、強盗は日常茶飯事。鉄道沿線の住民が鉄道のケーブルなどを盗んで運行不能になることもしょっちゅうだ。

キリスト像が立つコルコバードの丘の上から見下ろしたリオデジャネイロ市街(写真:marchello74/iStock)

では、なぜJR西日本は海外における鉄道事業の展開先としてブラジルを選んだのか。同社海外鉄道事業推進室の平野剛室長は、「日本だけでなくヨーロッパも含めて、競合する鉄道事業者がブラジルにはいなかったこと、三井物産、JOINという経験豊富なパートナーに恵まれたことが理由だ」と話す。

同社にとって初めての海外での鉄道展開。「第1に事業性を確保しながら海外事業のノウハウを確保したい。そして海外で学んだことを日本の鉄道に活かしていきたいということでスタートした」(平野室長)。事業性、つまり収益の確保はもっとも優先される条件だった。

スーペルヴィアはリオデジャネイロ州からコンセッション契約によって2048年まで鉄道運営権を付与されている。7路線、102駅を有し路線長は270km。約2500人の社員が従事する。1日平均の利用者数は59万人で、規模的には日本の大手私鉄レベルに匹敵する。

改善の余地はあちこちに

ただ、平野氏は脱線事故が毎年のように起きていることを心配視する。また過去には保守作業の不備から列車自動停止装置(ATS)が故障し、運転士がATSを切って運転した際に不注意でほかの列車と追突事故を起こすというアクシデントが起きたこともあった。「悪く言えば、一刻も早く改善する必要がある。良く言えば、日本のノウハウを学んでいただければ劇的に改善される余地が十分にある」(平野室長)。

スーペルヴィアの運営権にはメンテナンスも含まれる。そのため、インフラは州が所有しているが、インフラのメンテナンスはスーペルヴィアが行うことになっている。

スーペルヴィアのターミナル、セントラル駅に停車する電車(写真:JR西日本)

JR西日本の参画後、担当者が線路の状況をチェックしたところ、レールの品質があまりよくなくて傷ができやすく、レール破損を招きやすいことがわかった。線路下の排水が悪いため、雨が降ると水がたまりやすく路盤がドロドロになることもわかった。乗り心地が悪くなるだけでなく安全面にも支障が出かねない。また、電化柱もメンテナンスの状態が悪く腐食が進んでいることがわかった。

安全性向上に向けた技術支援を行うため、JR西日本は電気系と運行系の経験を持つ2人の社員を現地に出向させたほか、必要に応じてさまざまな部署のスタッフが1~3週間出張などして対応している(現在の出向者数はコロナ禍の影響で流動的)。

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