巨艦SC戦略に異変 突然の路線転換 イオン“決断”の理由

拡大
縮小


 定率減税廃止や原油高などの影響で、同社では昨夏以降、既存店が伸び悩んでいる。消費低迷下で出店拡大を続ければ、収益性が悪化するのは明らか。社内での出店抑制の議論は、その頃から始まったようだ。

まちづくり三法の改正によって出店規制が強化され、当面他社からシェアを奪われる懸念が少ないという計算も働いただろう。あらゆる面で今回の戦略転換は必然だった。 

難航必至の事業整理 資産流動化は両刃の剣

方向性は見えたものの、具体策となるとクリアすべき課題は多い。正田雅史・野村証券金融経済研究所アナリストは「資産効率化にはコストが発生する。具体策が見えない現状では業績予想に織り込めない」と指摘する。中でも焦点となるのが、事業選択と資産流動化の動向だ。

イオンは今後3年で事業売却により500億~600億円の資金を捻出する。ただ、ここまで戦線が拡大した事業の整理は容易ではない。

イオンは8月に純粋持ち株会社に移行する。そこでは11の事業領域を掲げる方針で、中にはドラッグストアや専門店といった、現状では中核とは言い切れない事業も含まれる。今後ダイエーへの追加出資が俎上に上る可能性もある。

事業売却における最大のポイントは、やはり米国の衣料専門店タルボットだろう。しかしタルボットは新CEOを迎え、キッズ業態からの撤退など再建策を始めたばかり。「事業売却を検討するとしても、まず同社を立て直してから」(イオン中堅幹部)という難しい状況にある。

資産の流動化は3800億~4000億円規模で実施する計画で、今後の資金調達の要となる。だが、サブプライム問題に端を発した世界的な信用収縮の中で、もくろみどおり進むかどうか。商業施設に強いREITの幹部は「投資家の目は非常に厳しい。今後の物件については要求されるリターンが高くならざるをえない」とくぎを刺す。営業を継続する店舗の流動化を無理に進めれば、家賃増として跳ね返り、収益圧迫要因となってしまう。

流動化の前提としてイオンモールの完全子会社化が必要となる可能性もある。デベロッパーとしてグループの中核をなすイオンモールと一体でなければ、想定する規模の流動化は難しいからだ。ただ同社の完全子会社化には、単純計算でも3000億円規模の買収資金が必要となる。

消費不況や金融情勢などイオンを取り巻く環境を考えれば、今回の方針転換はタイムリミットギリギリだった。クリアすべき課題が残る中で投資家を納得させることができるか。数値目標を含めた詳細計画は、4月にも発表される。
(並木厚憲記者 =週刊東洋経済3月15日号)

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