豪雨で被災「肥薩線」はいまどうなっているのか 橋も線路も流され、再開は長期戦の様相に

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やがて、一勝地駅にたどり着く。そこはわずかばかり高台のため、隣の郵便局ともども難を逃れた。対岸の山腹に役場が建つ球磨村の中心地だ。観光列車の乗客を相手に販売している球磨村グッズや伝統玩具の「きじ車」、そして受験生に人気の入場券も売っている。芸能人のサイン色紙も楽しげに壁に並び、以前の姿を残している。ただし、平常なのはそこだけである。一段下の住宅は無事に見えても、家財道具一切を運び出して修復していた。

谷の入口にあたる渡駅のホーム。電線に流下物が引っ掛かったのか電柱が倒されている(写真:久保田 敦)

その先は国道を進むと、ようやく谷間の空が広がってくる。人吉盆地への入口である。だが、壊れた温泉施設の敷地から望む目の前に、第二球磨川橋梁の倒壊現場がある。ここは2連のピントラス桁もろともと、上路ガーダー桁が落ちた。1つだけ残ったガーダーも、軌道は引き剥がされて脇の河原に横たわるトラスと運命をともにした。すぐそばでは道路橋のトラス桁も落ちている。

人吉方はもう平地となるが、盆地から谷に狭まるポイントなので、濁流は急に勢いと嵩を増しながら一帯を襲ったことが知れる。建ち並ぶ住宅もすべて呑み込まれた惨状を示す。そこに木造駅舎の渡駅が残っていたが、ホームの電柱はなぎ倒され、駅舎内の天井は剥がれ落ちていた。

列車が来なくなった人吉駅に動かない車両

結局、八代で谷に入ってから人吉盆地に至るまで、肥薩線はほぼすべて被災したように思える。この間、40kmを上回る。人吉市街に入ると、国道沿いのファミリーレストラン等はいくつか営業を再開していたが、全体的には休業したままのところがほとんどらしい。

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球磨川に面する人吉市中心部の浸水高さは、豪雨検証委員会資料には、計画高水位(河川計画を立てる際に基本となる水位を指し、堤防工事等の基準となる。完成した堤防が耐えられる最高水位であり、指標としてはこの下に警戒水位がある)の4.1mに対して6.9〜7.6mに達したことが記されている。低い箇所の家屋は2階まで浸かった。

人吉駅にも水は寄せた。駅舎は床が浸る程度で済んだものの、線路レベルでは隣接するくま川鉄道の気動車5両全車が床下まで水没した。石造りの重厚な機関庫内ではJRのキハ40とキハ220もそれぞれ水に浸かり、ひっそり留め置かれたままとなっている。その駅では、九州新幹線と連絡して新八代と宮崎を結ぶJR高速バス「B&Sみやざき」が人吉ICを経由するので、おもにその乗車券を販売している。

なお、肥薩線人吉以南では、人吉駅から3.3kmの地点で築堤が崩れているが、球磨川沿いを見てきた目には小さな損傷にしか見えなかった。肥薩線は矢岳を越えた吉松―隼人間で運転しているが、観光ルートとして接続列車を失った「はやとの風」は当面運休となっている。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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