日本およびギリシャ、スペイン、ポルトガルの国債を分析《ムーディーズの業界分析》

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 まず阻害要因について述べると、流動性支援が財政移転になる、あるいはそのように受け取られるリスクがあり、これはモラルハザードを生む可能性がある。他国への永続的な財政移転には支援する側/債権国の納税者からの反発は免れないだろう。

一方で、危機の伝播のリスクを防ごうとする促進要因も存在する。90年代初めのERM通貨危機の時を振り返ると、感染リスクを封じ込めようと政府は銀行に広範な支援を行った。こうした国々が自身の資金計画やコストに生じるリスクを受けて、仲間のEU加盟国への流動性支援をしないとは考えにくい。これは、問題の加盟国が財政改革に取り組んでいるのであればなおさらそうである。加えて、加盟国が財政を持続的な軌道に戻すのはEUの利益にかなっている。

EU条約に記されている支援可能性のメカニズム

EU条約はEUあるいは加盟国が他の加盟国に対して援助の手を差し伸べる可能性を予見していたが、支援を行う枠組みが明記されているわけではない。各国政府は主権を有しており、相互に供与する支援は究極的には主権国の決断に委ねられる。EU条約には二つだけ禁止項目がある。

つまり、EUや他の加盟国が他国債務の責任を負ってはならないことと、中銀が加盟国政府への直接的な貸し出し、あるいは加盟国政府からの直接的な債券購入を禁じている。いずれも流動性支援の障害にはならない。つまり、EU加盟諸国ならびに機関は条約の規則の下で必要に応じて流動性支援を提供するだけの柔軟性を有しているといえる。

ポルトガル

ムーディーズは、09年10月にポルトガルにAa2、格付け見通しはネガティブとした。経済の活性化を促す措置と財政調整がなければ、低い競争力と高い金利で同国の信用力が間違いなく損なわれると考えている。ムーディーズではいくつかの金利想定における、ポルトガルの債務負担能力に関するシナリオで今後の動向を検証した。ギリシャほど難しくはないものの、債務負担能力を安定させる努力が明らかに求められている。見通しはネガティブとなっており格下げ材料があるものの、ムーディーズは大幅な格付け変動は考えていない。

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