「英語工場の看板」を取り替えよう [対談]大西泰斗×斉藤淳の英語勉強法(5)

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「英語業界」はニーズとのギャップを解消できていない

斉藤淳 元イェール大学助教授。元衆議院議員(2002-03年、山形4区)。 1969年、山形県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授を経て、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。研究者としての専門分野は日本政治・比較政治経済学。TBSラジオで選挙解説なども担当。主著『自民党長期政権の政治経済学』により、第54回日経・経済図書文化賞、第2回政策分析ネットワーク賞(本賞)を受賞。 2012年、アメリカより帰国し、東京・自由が丘にて中学・高校生向けの英語塾を起業。一般向け著書としては初となる『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』では同塾で実践しているメソッドをまとめた。

斉藤:先生の本では、ある程度、年齢が進んだ学習者が、日本語を介さずに「英語の世界」を脳内に構築できるような、作り込みがなされていますよね。

大西:訳読中心の英語教育が抱える最大の問題は、日本語の偏重です。英語と日本語は大きく異なります。日本語訳を知っているだけでは英単語をうまく使えませんし、日本語訳ができるからといって「話す」は保証されません。語順もまったく異なりますから。

斉藤先生は『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』の中で、出会った無数のsituation(状況)から単語の意味や用法、文法を類推し身に付ける学習方法を推奨されていますね。状況から文法・語彙・語法へのトップダウン。確かに理想的ではありますが、ある程度の素地があってこそ可能な方法だろうと思います。

たとえば、ある状況の中でセンテンスが聞こえてきたときに、わからない単語がひとつくらいあっても、おそらく意味をとることはできる。変数がひとつしかない方程式なら解けますから。でも、語彙上、文法上の変数がいくつも含まれていたら、そもそも何を言っているのかがわからない。

私がやろうとしているのは、先生のトップダウンとは逆方向、ボトムアップの学習です。ネイティブに囲まれても十分やっていくことができる、日本語訳にとどまらない英語の語彙力・文法力をつくる。その素地の上に、トップダウンの種子が着床し花を咲かせる。日本でできる最善の英語教育はそこにあると思っています。

斉藤:おっしゃるとおりですね。僕がアメリカに渡った頃は、「ぶっつけで現地に行って適当に学べ」というようなやり方ばかりでした。学校英語がしかるべき素地を提供してこなかったということでしょう。そんな中、『ネイティブスピーカーの英文法』が出てきたりして、「おそらく今後、日本でも英語学習の目指す方向性が変わっていくんじゃないかな」と期待しながら留学したのです。

その後、大学院生として7年、教員として6年ちょっと、14年近くアメリカにいたわけですが、日本の英語教育が当時からほとんど変わっていない状況にびっくりしました。

ビジネスの世界では、ユーザーのニーズとサービスとの間にギャップがあれば、そこがしだいに埋まっていくのが普通ですよね。ですが、日本の英語教育について言うと、なぜかその「溝」が埋まらない状況がずっと続いている。それなら「自分でそこに起業家として飛び込んでしまおうかな」と思ったのです。

大西:わが身のつたなさに泣けてきますね。正直、方向性ぐらいならもう少し早く変えられると踏んでいたのですが、「今までの教育でかまわない・変わらなくていい」方々が多いのでしょう。ただ、「変わらなくていい」の結果が今の惨状であり、「かまわない」が招来したツケを払うのは、本人ではなく次世代の若者であることを考えれば、そうした姿勢に与(くみ)することはできません。

ほかの業界では、時代の流れに則して「変わる」のが標準であり、常態です。

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