世界初のがん幹細胞標的薬、治験中止の波紋 大日本住友製薬の中期計画にも影響必至

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とはいえ、今回の治験中止が残した傷あとは大きい。BBI買収時に計上した仕掛かり研究開発(無形資産)は、その後の円安によって、繰延税金負債を加味しても、2013年度末時点で200億円程度に膨らんでいる。全額でないとはいえ、再評価の結果、一部は減損として損失計上される公算が大きい。

影響はそれだけにはとどまらない。現在進行中の5カ年の中期計画は、最終年度の2017年度に売上高4500億円、営業利益800億円の目標を掲げており、このシナリオも計画数値、内容の練り直しを迫られそうだ。

大日本住友では、中計2年目に当たる今2014年度の営業利益は前期比で半減の200億円と見通している。大幅減益の背景には、北米において従来の主力であった催眠鎮静剤ルネスタの独占販売期間の満了による急減がある。中計では、従来の主力品の落ち込みは織り込み済みであり、売り上げ拡大が続いている統合失調症薬ラツーダへのスムーズな主力製品の代替わりによって、今期を底として利益が反発する計画を立てている。

狂った「ポスト・ラツーダ」のもくろみ

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統合失調症薬ラツーダも、2019年1月で北米における特許が切れてしまう

だが、そのラツーダも北米における特許存続期間は、小児データ提出による延長を含めて2019年1月まで。日本とは異なり、北米では後発薬が出てくれば今期のルネスタのように売り上げは一挙に減少する。

大日本住友がBBIを買収した背景には、ラツーダの後の主力品候補、「ポスト・ラツーダ」を手に入れたいという狙いもあった。中計では、最終年度の2017年度にBBI関連で8億5000万ドルの売り上げを見込んでいる。その大部分を占めると期待されたのが、今回中止となった結腸直腸がん単剤の北米および日本での貢献だった。

昨年1月の急騰以降も、大日本住友の株価は1000円台半ばを中心に高値圏を維持していた。この間、理化学研究所認定のベンチャー企業との再生・細胞医薬事業の提携や、米国企業との難病治療薬でのライセンス契約、共同研究といった先端分野での株価刺激材料も続いた。ただ、BBI608の株価への織り込みについては、市場関係者の間にも「まだ期待先行では」と警戒する見方もあった。

バークレイズ証券の関篤史アナリストは、大日本住友が開発を急ぎすぎた可能性を示唆する。「BBI608の作用機序(薬物が生体に効果を及ぼす仕組み)は新規性が高く、有望な薬剤」と断りつつも、「有効性や安全性に関する知見蓄積を十分に行わないまま、第3相試験を開始してしまったため、価値の毀損が起こってしまったのではないか」と指摘する。

大日本住友は5月23日のカンファレンスコールで、治験中止によって浮いた開発費をほかのBBI関連の抗がん剤や抗がん剤以外に振り向けることで、開発を加速する考えを示した。だが、BBI関連で最も開発が進んでいる胃がん併用剤でも、申請目標は2016年度。今2014年度に申請を予定していた結腸直腸がん単剤からは2年も先となる。今回の試験中止の穴埋めは困難な道のりとなりそうだ。

水落 隆博 東洋経済 記者

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みずおち たかひろ / Takahiro Mizuochi

地銀、ノンバンク、リース業界などを担当

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