ぜんそく患者「コロナ禍で急減」という衝撃事実 予防や服薬など患者の行動変容が引き起こした

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「データベースの規模が大きいと、本当に解析したい集団を絞り込むことが可能になるため、より解像度の高い研究結果を実施することができる。臨床現場の気づきとクエスチョンを私たちのようなデータサイエンティストや臨床疫学者が吸い上げ、データを使って解析することで、新型コロナによって引き起こされた変化を定量的に理解することができる。そういった定量的な把握は、いわゆる“医療崩壊”を回避する取り組みを行っていくうえで非常に有用と考える」

今回の共同研究に参加した1人であるデータックの二宮氏は、こう語る。二宮氏は、データサイエンティストである前に医師でもある。医師とデータサイエンティストは、それぞれ使う言語が違うため、課題抽出の場面などで時間を要することがあるが、二宮氏はそれぞれの言語を理解できるので、課題解決までのスピードが短くなる。

国民的な行動変容が起きた

医学・医療界では、因果関係を突き詰めるのが難しい。二宮氏は、「コロナ禍で世の中にどのような変化が起きたかを明確にするには、データベースの研究はとても有効だ。今回の研究で認められたぜんそく入院患者数の劇的減少は、個人や社会が生活様式を変えることでぜんそくによる入院を防げる可能性があることを示唆した。ぜんそくの良好なコントロールのための予防行動や生活環境への配慮の重要性が再認識させられる」と話す。

データック代表取締役CEO兼医師の二宮英樹氏(写真:本人提供)

新型コロナに関する感染者の増加や経済停滞などの暗いニュースばかりが続く中で、今回のデータベース研究は比較的ポジティブな結果となった。新型コロナの感染拡大により、国全体で予防行動が徹底され、国民的な行動変容が起きたのは確実だ。その結果、新型コロナ以外の疾患が抑制されるケースが出てきている。

欧米で新型コロナの感染者が再び急増するなどして楽観できない状況だ。宮脇助教らのチームと二宮氏も含めた今回の共同研究者たちは、ぜんそく以外について、大規模診療データベースを用いた研究に、すでに着手している。一連の研究に対して世界中の医療者・研究者に関心を寄せてもらい、「研究のための研究」ではなく、「世の中のためになる研究」が進展することを強く望んでいる。

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新型コロナによる医療崩壊について二宮氏は、医療機関に新型コロナ患者があふれる事態と、感染を恐れて受診控えが起きてほかの病気の患者の医療が先延ばしされる事態が同時に起こることを“二重の医療崩壊”だと定義している。現在進行中のほかの診療データベース研究が、“二重の医療崩壊”を回避するヒントになると期待している。

君塚 靖 えむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者

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きみづか やすし / Yasushi Kimiduka

証券・金融畑の記者を経験した後、医療系記者に転身。2018年1月にメディカル・データ・ビジョンに入社。同社情報誌「えむでぶ倶楽部ニュース」編集部で医療・健康情報のデジタル化と位置付けられる、人が一生涯の健康・医療情報を自ら管理できるPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)についてや、コロナ禍で非接触型医療の新たな形として注目されるオンライン診療などについて執筆している。同社の医療情報サイト「めでぃログ」ポータル(https://portal.medilog.jp/)向けにも記事を執筆している。

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