グローバル時代に対応できない日本の人事 経営戦略と人事戦略が一致しないと、生き残れない

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対して日本の場合は終身雇用が原則だ。企業を取り巻く環境が変化して、業務内容が変わったり、時には会社の業態すら変わるということが起こる中で、四十数年間雇わなくてはならない。この制約は非常に大きい。

この制約がある以上、アメリカで行われている人事管理よりも計画的で高度な人事管理が求められる。40年間にもわたり、会社も個人も変化していく中、どんな職務に就け、どんなスキルを身に付けさせるのか、モチベーションをどのように維持・向上させるのかなど、さまざまなことを完全に計算して実行していかなくてはならない。

ところが、日本の人事管理は極めて情緒的で論理性や科学性に乏しい。人材フロー型の人事管理が当たり前の国と渡り合っていくのは厳しいと言わざるをえない。だからこそ、これからは「人事力」が企業の重要な要素となるはずだ。

経営計画を実現するためにあるのが人事

──「人事力」が高い企業というものも存在すると思うのですが、高い企業の特徴とはどのようなものなのでしょうか。

たとえば、最近、興味深いことをやったのがユニクロだ。日本で成功して世界にも進出した企業が非正規社員を全員、正社員にする計画を発表した。人件費コストが2割増しになると言われているようだが、今後の経営環境の変化を考えれば合理的だ。これからは確実に人材難になる。そんな中で人材を確保し、なおかつ彼らのモチベーションを上げ、より質の高いサービスに結び付けようと考えたのだろう。

しかし、ほかの会社ではそういう判断がなかなかできない。そこが、「人事力」のある会社か、そうでないかの分岐点だ。つまり、経営環境や市場を冷静に分析した結果出てきた課題に人事として対応できるかどうか──。言い換えれば経営に直結した人事になっているかどうかだ。直結していれば、その企業は「人事力」が高いといっていい。

──経営戦略と人事戦略が連動しないと駄目ということですね。「人事力」を高めるためには、何を変えていくことが必要なのでしょうか。

まず重要なのは経営幹部の認識だろう。人事管理の良し悪しが企業の成長を左右するという認識を持つことだ。そして、人事には、自社を冷静に分析して問題点を洗い出し、経営と連動して対処していくことが求められる。

ほかの分野──、たとえば営業であれば、消費税率が上がり、売り上げが落ちるとなったら、すぐにキャンペーンを打てという話になるだろう。ところが、人事の場合、消費税が上がれば、従業員の実質的な所得が下がり、場合によってはモチベーションダウンや離職者の増加で生産性の低下にもつながるかもしれないにもかかわらず、ほとんどの企業がほったらかしだ。

問題にはスピーディに対応する。その前提として現在の経営の状態、人事の状態を認識する──。これからは人事分野における現状認識力とスピード感を持つ企業しか生き残れないだろう。

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