自由が丘「スイーツの街」だけじゃない昭和の顔 歩いて楽しい瀟洒な通り、連日賑わう「美観街」

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自由が丘の住宅街では、あちこちで凹凸坂に出会う(写真:筆者撮影)

駅から5分ほど歩くと高級住宅街となる。そこに登場するのが上りと下りの坂が連続する凸凹坂。これが路地とともに自由が丘の地形の面白いところだ。

駅北側の熊野神社境内には自由が丘の街の功労者・栗山久次郎の顕彰碑がある。地元の村長を務め、昭和初期まで農村だった一帯の耕地整理を推進。東横線の敷設時には駅を誘致し、碑衾町大字という地名を自由ヶ丘に改名する決断もした「自由が丘誕生の祖」ということだ。

現在、都内の高級住宅地となっている土地には、その裏にこのような郷土の功労者の存在が見られることが多い。

平日の昼下がり、自由が丘駅近くの中国料理店に入ると、裕福そうな老夫婦や奥様のグループがランチを楽しんでいる。隣の席の二人連れマダムは、手持ちの不動産を業者に高く売ってもらうにはどうしたらよいかという話で盛り上がっている。

若者だけでなくオヤジ層も魅了される奥行きの深い街

自由が丘駅付近には、メガバンクや信託銀行の支店、大手証券会社、不動産会社の営業所も点在し、近隣の資産家を顧客ターゲットにしていることがうかがわれる。

昭和の香り漂う「美観街」(写真:筆者撮影)

一方で、駅北側の東横線と大井町線の線路に挟まれた一帯には「美観街」という昭和の香りふんぷんたる飲食店街があり、夕方5時前から、うなぎの「ほさかや」、焼鳥「かとりや」といった人気店は満席。文化人御用達の「酒学校」と言われる居酒屋「金田」もこの通りにある。山の手、ハイソというイメージがありながら、新橋の駅前のようにオヤジ層を受け入れてくれる居心地のいい飲み屋街があるのが、この街の奥行きの深いところだ。

自由が丘駅の東横線ホームで電車を待っていると東横線車両のほか、乗り入れしているみなとみらい線、東京メトロ副都心線、東武東上線、西武池袋線とさまざまな車両が次々にやってくる。

今、東横線は東京メトロ副都心線を介して、西武池袋線、東武東上線とも直通し、埼玉県の森林公園や川越市、所沢や飯能といった駅へも乗り換えなしで行ける。休日の自由が丘には、案外埼玉から来ているカップルや女子のグループが多いのかもしれない。

鈴木 伸子 文筆家

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すずき のぶこ / Nobuko Suzuki

1964年生まれ。東京女子大学卒業後、都市出版『東京人』編集室に勤務。1997年より副編集長。2010年退社。現在は都市、建築、鉄道、町歩き、食べ歩きをテーマに執筆・編集活動を行う。著書に『中央線をゆく、大人の町歩き: 鉄道、地形、歴史、食』『地下鉄で「昭和」の街をゆく 大人の東京散歩』(ともに河出書房新社)『シブいビル 高度成長期生まれ・東京のビルガイド』(リトル・モア)などがある。

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