なぜ「味ぽん」はパスタソースを買収したのか 創業210年、初の中埜家以外のトップが世界に挑む

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一方のミツカンは半田市の造り酒屋だった初代中野又左衛門が、江戸後期の1804(文化元)年に分家独立して粕酢を造ったのが始まり。戦後はいち早くびん詰めの生産ラインを導入、1964(昭和39)年に発売した「味ぽん」が大ヒットして全国に名をとどろかせた。

その後は多角化を進め、「おむすび山」や「追いがつおつゆ」「五目ちらし」などのヒット商品を量産、2000年以降は「金のつぶ」を中心とした納豆を第二の主力商品に育て上げる。

同時に海外へも積極的に進出、アメリカの食酢メーカー、アメリカン・インダストリーの買収を皮切りに海外企業のM&Aも数多く仕掛けていた。

ミツカンは社長交代直後

歴代トップは創業家の中野家(4代目から中埜姓)が「又左衛門」を襲名しながら引き継いできたが、2000年代の積極経営を率いてきた8代目の中埜和英氏が今月16日付で社長職を生え抜きの長谷川研治氏に譲る人事を発表。その3日後に突如開いた今回の買収発表会見には、中埜会長、長谷川社長が再びそろって臨んだ。

中埜会長は社長人事と買収との関係を問われ、「この案件があったから人事を決めたわけではない」と苦笑いした上で、「海外比率を高めたいという思いで組織を作り上げてきて、たまたま人事と契約が重なった。私が経営に携わってから約20年で一つの区切り。企業継続という観点から次世代に正しく引き継いでいくためで、責任はすべて私がとる」と強調した。

グループの年間売上高は1500億円規模、経常利益は昨期212億円で、2000億円の買収はかなり強気だ。資金は三菱東京UFJを主体に4行から借り入れ、グループ全体で6~7年かけて返済する計画だという。

「生産、物流、新製品開発などで既存事業とのシナジー(相乗)効果が期待できる。日本とアメリカの違いはあるだろうが、そこはブランド戦略をしていく企業として腕の見せどころだ」と長谷川社長。ただ、当面はアメリカでの販売が中心となり、今後のグループ売上高に占める海外比率は50%を超える見通しだ。

地方から世界にはばたく企業の挑戦としてユニーク。しかし、パスタと酢のブレンド風味が想像できないように、その効果は未知数と言わざるを得ないだろう。

関口 威人 ジャーナリスト

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せきぐち たけと / Taketo Sekiguchi

中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で環境、防災、科学技術などの諸問題を追い掛けるジャーナリスト。1973年横浜市生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修了。

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