改修だとコスト半分、国立競技場の重大岐路 解体工事は7月開始予定。土壇場の大逆転はなるか

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5月11日に最後の陸上大会が行われた(撮影:YUTAKA/アフロスポーツ)

「防潮堤と同じことが行われている。住民が何も知らされていない」

建築家の伊東豊雄氏が語気を強めた。東北の防潮堤と比較したのは、東京の真ん中に造られようとしている新国立競技場だ。その大規模な建て替え計画に対し、現施設を最大限残して改修する代替案を5月12日、市民グループ主催のシンポジウムに合わせて伊東氏自らが発表した。

伊東氏は建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を昨年に受賞。「せんだいメディアテーク」「バルセロナ見本市」など国内外の建築設計や再開発デザインを手掛ける一方、東北では岩手の陸前高田や釜石の復興にも携わっている。

国立競技場の建て替えは同じプリツカー賞受賞者で英国の建築家、ザハ・ハディド氏のデザインをコンペで採用。2019年のラグビーW杯、20年の東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして完成させるため、文部科学省所管の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が手続きを進めている。しかし、敷地である神宮の森や街並みに対して巨大すぎ、コストが莫大で、コンペのプロセスも不透明だ、などとして、建築界や市民から反発が起こっていた。

超大物2人が異議を表明

最初にのろしを上げたのは建築家の槇文彦氏だ。現競技場に隣接する東京体育館の設計者である槇氏は、オリンピック開催決定前からコンペやザハ案に対する批判を公言し、反響を呼んでいた。伊東氏は槇氏より一回り下の世代だが、建築界の「超大物」2氏が相次いで異議を表明するという展開に注目は高まる。

伊東氏の立場が槇氏と違うのは、新競技場のコンペに応募者として参加していた点。しかし、当時から感じていた疑問は、ザハ案の採用とその後の経緯で決定的に。今年に入り、人類学者の中沢新一氏から説得され、代替案の作成を引き受けたという。

「あれだけ大きなコンペをやったのに、いまだに鳥瞰図のような絵しか示されず、市民の目線でこの案のどこがすばらしいのかが説明されていない。まずこのプロセスに大変な危惧を持っている。技術やコスト面でもさまざまな問題が出てくるだろう。コンペをやって初めてわかることもあり、負けた人間だが改修の可能性を示すことにした」

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