「アリ型」日本人は、変化に対応できない アリの「閉じた系」からキリギリスの「開いた系」へ

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アリとしての日本人の思考回路

ここまで、問題を解決するために「線を引いて内外を区別する」アリの思考回路と、「線を引かずに考える」ために問題を発見できるキリギリスの思考回路の違いを見てきた。私たち日本人の思考回路は、どちらかと言えば、「ムラ社会」という言葉に代表され、また島国という閉鎖的になりがちな物理的な環境からも、アリ型の傾向が強いことは明らかであろう。

「鬼は外、福は内」という言葉も、日本人の「閉じた系」の思考回路を如実に表現している。「鬼は外、福は内」とは、決められた線の中に鬼を入れたくはないが、外に出してしまえば問題ないということを暗に示している。極論すれば、枠の中だけが最適化できれば、外には鬼を放ってもいいということである。

これは「開いた系」の考え方からは想像もできない発想だ。どこにいようが鬼がいるかぎり、その鬼と共存しなければならないからである。

そう考えると、「決められた枠の中を最適化する」のは、「閉じた系で考える」のが得意な日本人には絶好の勝ちパターンであったと言える。「ガラパゴス」と揶揄されるように、日本独自の進化を遂げている製品やサービスに関しても、「日本以外では通用しない独自仕様」という負の側面が強調されがちであるが、「枠の中の出来映えは非常に優れている」という強みもある。自動車や電機製品などでも「製品」というある程度の「外枠」が与えられたときに、それを最適化するのが典型的な勝ちパターンであったことも、日本人の得意とする思考パターンからすれば、十分にうなずける話である。これまでは「閉じた系」の強さと弱さの両方が現れていたのではないか。

今後のビジネスを考えるうえでのキーワードとして、「グローバル化」や「ソーシャル」といったものが挙げられる。これらはいずれも「開いた系」を前提とするものである。またICT(情報通信技術)の世界を中心に「クラウド」や「プラットフォーム型のビジネスモデル」といったものの重要性が高まってきているが、これらは「線を引き直す」発想が求められるものである。こうした観点からも、これまで以上に従来は日本人が相対的に苦手としてきた「キリギリスの思考」が重要になってきていると言えるだろう。

次回は3つめのポイントである「固定次元」と「可変次元」の発想の違いについて解説する。

細谷 功 ビジネスコンサルタント、著述家

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ほそや いさお / Isao Hosoya

1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業後、東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティング(クニエの前身)に入社。2009年よりクニエのマネージングディレクター、2012年より同社コンサルティングフェローとなる。問題解決や思考に関する講演やセミナーを国内外の大学や企業などに対して実施している。

著書に『地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」』、『アナロジー思考 「構造」と「関係性」を見抜く』『問題解決のジレンマ イグノランスマネジメント:無知の力』(以上、東洋経済新報社)などがある。

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