「アクションカメラの英雄」は1億ドルをどう使う?
カメラメーカーのゴープロ社が株式上場へ

拡大
縮小

野村総合研究所の調べによると、世界の消費者向けビデオカメラ市場(FAカメラ、車載カメラ等は含まず)は成熟しており、2010年の2200万台から2011年1920万台、2012年1500万台と縮小している。この中で、「GoPro HERO」を中心とするアクションカメラ市場は拡大傾向。ソニーは「アクションカム」、JVCケンウッドは「スポーツカム」のブランドで参入するなど、従来のビデオカメラメーカーもこの市場に力を入れている。

こうした中、今回の上場によって最大で1億㌦を調達するゴープロ社の狙いはどこにあるのか。

販売数量は伸び悩み

まず、ゴープロ社はここ数年の倍増近い本体販売数量の拡大が今後も続くとは考えていない。開示資料のリスクファクターの中でも、「近年の成長率は将来のパフォーマンスを示すものではない」と明言している。そのため、単純な販売数量拡大へ向けた投資用途だけが目的はないことは明らかだ。

カメラ本体の性能向上による販売増と同時にゴープロ社が目指しているのは、新たなビジネスの育成だ。その視線の先には、映像コンテンツ販売を中心としたメディア事業の本格展開がある。

ゴープロ社はサーフィンなどアクションスポーツのプロ選手を始め、ミュージシャンや著名人など世界で120人以上と契約を結び、スポーツ大会を中心に年間90ものイベントをスポンサードしている。たとえば、トリノ大会、バンクーバー大会の2期連続で冬季オリンピック金メダルを獲得したスノーボードのショーン・ホワイト選手も契約選手の一人だ。

このような活動を通じた映像コンテンツを生かし、ゴープロ社はヴァージンアメリカ航空やマイクロソフト社のXbox向けに、スポーツを中心とした映像コンテンツの提供を行っている。今後はこのような映像コンテンツの提供先をさらに増やしていく計画だ。

また、YouTubeに一日平均6000件ものアップロードがあるという、一般ユーザーが「GoPro」で独自で撮影した膨大なコンテンツの活用にもビジネスチャンスを見いだしている。

ビデオカメラ市場でアクションカメラという新ジャンルを確立し、急成長を続けるゴープロ社。ナスダック市場への上場を足がかりに、カメラ本体の販売に加えて映像コンテンツ販売のメディアビジネスを軌道に乗せることができるか。38歳の若き創業社長、ニコラス・ウッドマン氏の経営手腕に注目が集まる。

島 大輔 『会社四季報プロ500』編集長

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しま だいすけ / Daisuke Shima

慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。総合電機メーカー、生活実用系出版社に勤務後、2006年に東洋経済新報社に入社。書籍編集部、『週刊東洋経済』編集部、会社四季報オンライン編集部を経て2017年10月から『会社四季報』編集部に所属。2021年4月より『会社四季報プロ500』編集長。

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