「ヒステリック上司」になっていないか 第6回 「べき論の境界線」を安定させるべき

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松井選手が5連続敬遠をされたときの「べき論」は?

元メジャーリーガーの松井秀喜選手が、高校時代の1992年、甲子園で5打席連続敬遠に遭った際、グランドに物を投げ入れた観客が多数いた。彼らは、「野球は正々堂々と勝負すべき」「高校野球で敬遠はすべきではない」といった「べき論」に基づいた行動をとったのだろう。しかし「敬遠はすべきではない」という「べき論」は正しいと言い切れるだろうか? 敬遠は、野球のルールに則した行為である。冒頭の高校教諭が校長の許可をとって入学式を欠席した行為と同じ範疇と言えないだろうか?

 あのとき、甲子園球場は騒然とし、まるで敬遠が悪のような印象が強められた。松井選手の相手高校がとった作戦の是非について、統計をとったならば、入学式の事例同様、擁護派と批判派の割合が拮抗していたのかもしれない。

 私たちは、様々な「べき論」を持っている。例えば、会社はこうあるべき、子ども(親)はこうあるべき、上司(部下)はこうあるべき、女性(男性は)はこうあるべき、サービスはこうあるべき、マナーはこうあるべき、教育はこうあるべき、服装や髪形はこうあるべき、話し方はこうあるべき……など、挙げたらキリがない。こうした「べき論」が、目の前で起きている事実や現実とのギャップがあると、怒りの感情となって表れてくるのである。

 居酒屋やレストランでウエイターに説教する客は、自分の目の前で、己が信じていた何らかの「べき論」が裏切られたからである。駅員やタクシー運転手にクレームをつける客も然りだ。

 筆者は社会保険労務士だが、近年認められるようになった男性社員の育児休暇取得について、苦虫を噛み潰したような顔をする社長と出会うことがある。これも、育児介護休業法に定められた権利を行使しての休暇なのだが、この社長には「男性社員は仕事に没頭すべき」といった「べき論」が強いのであろう。「育メン社員」を許容範囲には含められない、社長にとっての「譲れない価値観」があるのだ。

 日常では、もっと些細な「べき論」で怒りの感情を表す人もいる。例えば、居酒屋の乾杯でビール以外の飲み物を注文したことを非難する人、自分が好んでいる映画やテレビ番組を認めない人に血相を変えて猛抗議する人、うどんの出汁の風味や目玉焼きにかける調味料などで大騒ぎする人など、しょっちゅう怒りを撒き散らしている。「自分ルール」に過ぎない「べき論」であるのに、だ。

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