「ユーロ危機はまだ終わらない」 英シュローダーのアナリストに聞く

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――今年、来年の注目イベントは?

まず、政治動向をみる必要がある。問題は、政治家が、有権者よりも、欧州統合を積極的に進めてしまっている状況がある。政治家の考えることに有権者がついてくるのか、もう少し有権者の声に耳を傾けることが必要だ。たとえば、フランスの右派、ルペン党首は、「フランスはもはや通貨も、財政も、国境も管理してはいない」と極端なことを言っている。

――欧州、新興国と比べ、米国は経済の見通しが良好だ。

かなり健闘している。日本以外は、財政問題が改善してきている。経常収支も改善中だ。住宅ローンも数字が芳しくなかったが、全般としては良くなってきている。銀行セクターの整理もかなり進んだ。

米国の利上げ時期

――ただ、米国では労働市場のスラック(需給の緩み)が指摘されている。

労働市場がひっ迫してくると企業の収益は減ると言われるが、今年、来年は問題にならないとみている。ただ、金利上昇のタイミングを考える上で、労働市場の状況をみることが非常に重要だ。ポイントの一つは労働参加率だ。金融危機の前から21世紀に入ってずっと減少してきている。参加率の低下は、相対的な賃金上昇がそれほど大きくなくても、失業率は下がっていくことを意味する。

今後、新規雇用者数が毎月7万人ずつ増えていけば、1年後には失業率は6%まで下がっているだろう。実質賃金は上昇し、Fed(米国連邦準備制度)は来年上期に利上げに踏み切るだろう。

――一方、米国のインフレ率は上昇の度合いが鈍い。

インフレ率は、労働市場、特に賃金の動き次第だ。これはアベノミクスも同様で、インフレ率が上昇するだけでなく、実質賃金が上昇しないと消費は増えない。

――Fedが利上げを始めると、新興国市場に混乱が生じないか。

これは昨年起こったことだが、すでにもう織り込まれていると考えている。ただ、フラジャイル5と言われる新興国5カ国(ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカ)に問題はある。経常収支の赤字が大きいだけでなく、短期的な借り換えリスクがある。特にトルコが懸念される。

――日本のアベノミクスの評価は。

方向としては正しいのではないか。ただ、実質賃金が上昇したのか、まだ確認できていない。(2%の目標を掲げる)インフレ率のみならず、実質賃金の上昇も見たい。それが確認できない限り、アベノミクスは成功とは言えない。実質賃金が上昇したとしても、公的債務の問題がある。その財政赤字をどう削減していくのかという問題が残っている。

日本のように巨額の債務を抱えた国で、うまく解消した例が先進国で1つある。戦後の英国だ。GDP比250%の債務水準だったが、25年かけて同比率を50%に引き下げた。財政赤字はGDP比3%以内にコントロールできていた。インフレ率は3%、実質経済成長率は3%。名目GDPは財政赤字の伸びの倍という環境があったので、英国のGDP比債務水準は下がっていった。しかし、日本はその状況からほど遠い。カギとなるのは、名目GDPが財政赤字の伸びより大きいことだ。
 

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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