今年、厚生労働省が公表した「2019年 国民生活基礎調査」によると、子どもの貧困率(17 歳以下)は13.5%だった。15年の調査が13.9%だったから0.4 ポイント改善はしているものの、いまだに約7人に1人の子どもが貧困状態にある。学校の1クラスが35人だとすると、クラスに5人はいる計算だ。

貧困の定義は、さまざまなものがあるが、生きていくのに欠かせない家や食べ物がない状態を絶対的貧困という。一方、世帯の可処分所得が全体の中央値の半分に満たず、国の生活水準と比較して困窮している状態を相対的貧困という。

子どもの貧困という場合、国際比較にも用いられるこの相対的貧困を指すことが多い。2017年にOECD(経済協力開発機構)が行った調査によれば、日本は相対的貧困率が高く、日米欧主要7カ国(G7)の中でも米国に次いで悪い水準となっている。相対的貧困にある子どもは、経済的な理由で教育をはじめ、さまざまな体験の機会に恵まれずに学力が低下。それが学歴、就職、収入など生涯におけるあらゆる格差につながっている。

新型コロナによって深刻化する教育格差

こうした教育格差が、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大によって深刻化している。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが、小学生から高校生の子どもがいる2000世帯に対して行ったインターネット調査(20年6月8〜12日)によれば、貧困世帯は新型コロナによって所得の低下と、休校による教育機会の縮小というダブルパンチに直面しているという。

新型コロナによる雇用や所得への影響を聞いた設問では、不安定な就業形態にある非正規や自営業の離職・転職率が高いという結果が出ており、さらにもともと低所得だった世帯の所得が20年1〜5月にかけて、いっそう減少していることがわかった。

この調査で注目したいのは、新型コロナの感染拡大による休校期間中の「家庭における子どもの勉強時間」の変化だ。調査を行った三菱UFJリサーチ&コンサルティング 経済政策部 主任研究員の小林庸平氏は、こう分析する。

「臨時休校後、1週間当たりの子どもの総勉強時間が全体的に約38.5%減っていることがわかりました。成績のいい子どもほど勉強時間が長い一方、成績の低い子どもの勉強時間の低下幅が大きく約20時間も減っています。そもそも新型コロナ以前から、低所得世帯また1人親世帯の子どもの学力は低い傾向にありましたが、その格差拡大に拍車がかかっていると考えられます。

勉強時間に影響を与える要因として、まず自学自習ができる子とそうでない子の差がありますが、『家庭で勉強を見てあげられているかどうか』が大きく、勉強を見てあげられる家庭の両親は、学歴が高いケースが多いとわかりました」

勉強がわからなくても教えてくれる人がいない

はたして実情はどうなっているのか。貧困家庭の子ども向けに無料学習会や居場所支援を行っているNPO法人キッズドア 理事長の渡辺由美子氏は「休校の影響は大きかった」と話す。そして貧困家庭の子どもの学力が低下する原因として、まず住環境を挙げる。

「18年のデータによりますと、貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は127万円、4人家族でいうと年収253万円以下となり、そこから払える家賃というのは限られています。食べる部屋と寝る部屋、そして小さいキッチンという構造の家に住んでいる家庭が多く、ほとんどの子どもたちは自分の部屋がありません。子どもが高学年になったとき、勉強ができる部屋をつくってもらえるかが重要なのですが、新型コロナ以前から、勉強部屋がない子どもの学力は低くなる傾向にありました」

休校中は、そうした狭い空間で親が在宅で仕事をしたり、テレビを見ている中で勉強をしなければならず、やる気になれない子どもが多くいたという。しかも、学校から宿題としてたくさんのプリントを渡されて、わからなくても教えてくれる人がいない状況にあった。世間では、学校のオンライン学習の有無で差が出たといわれているが、渡辺氏は「オンライン学習よりも、子どもの勉強を見ることのできた家と、そうでない家とで差がついたと感じている」と話す。

「キッズドアでは5月以降、独自のオンライン学習支援を始めました。といってもパソコンがない家庭もあります。家庭の環境調査をして、スマホならば持っている家が多いとわかり、勉強でわからないところを写真に撮ってLINEで送ってもらい解き方を教える支援を続けました」

そのほかにも、企業の支援を受けて、全国1万人の子どもたちに文房具とクオカードを送付。「学校が始まるのにノートがなくて助かった」「久しぶりに子どもにおやつを食べさせることができた」など喜びの声が届く一方、「お米を送ってほしい」という声もたくさんあったという。

全国1万人の子どもに「家庭学習応援パック」として文房具とクオカードを送付。写真左が小学生低学年向け、写真右が中高生向けの内容例(写真:キッズドア提供)

日本で「大変だから助けてください」と言えない理由

子どもの支援が必要なのは、決してアフリカやアジアなどの開発途上国に限った話ではない。確かに多くのメディアが、日本における子どもの貧困を取り上げるようになり認知は進んでいる。貧困対策の推進に関する法律ができたり、学習支援や食の支援などを行うNPOも増えたが、厚生労働省が初めて子どもの貧困率を出したのは09年。親の収入と子どもの学力はひも付いていて教育格差が起きているということがわかったのも最近だ。まだまだ日本の「子どもの貧困」の歴史は浅い。

「日本の貧困政策は脆弱です。しかも日本の貧困の特徴は、かつて1億総中流といわれた時代があって貧困家庭の少ない時期があったせいか、『大変だから助けてください』と言えない状況にあります。貧困や生活保護家庭に対するバッシングを見てもわかるとおり、言うとたたかれるからです。

日本人の気質なのか、努力すればどうにかなるといった根性論的なものがあって、当事者も自分の問題だから自分で頑張らないといけないと思ってしまうところがあります。貧困率は、13.9%から13.5%へと改善しましたが、実質的に厳しい子は減っていません。しかも貧困に陥りやすく、一度落ちると上がりにくい、放置していると貧困層は確実に増えます」(渡辺氏)

日本では、児童手当や医療費など、中学生でいろいろな支援が終わってしまう。支援を受けて高校に行けるかどうかで生涯賃金が大きく変わるのにだ。少子化で高齢者を支える子どもが減る中、一人ひとりが貧困の子どもを放置することがいずれ自分に返ってくる。国民全体の問題として子どもの貧困を考えるべきではないだろうか。

学校で「調理実習があるからエプロンと三角巾を持ってくるように」と言われて、経済的な理由で用意ができない家庭がある。「何で忘れたのか?」と先生が尋ねても、ほとんどの子は親を気遣って理由を話さないという。コンパス、書道道具……と忘れ物が続いたとき、怒らずに、何かが起きているのかもしれないーー、そう気づくだけでも、少しずつ実情は変わっていくのではないだろうか。

(注記のない写真はiStock)