小児医療が崩壊する!患者と収入「5割減」の衝撃 病院数は20年前から3割減、廃業の決断も

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前出の小児科医会の調査によると、5月の外来患者が40~60%減少したという施設が4割を占めて最も多かった。調査では、今回のコロナ禍をきっかけにすでに廃業を決めたという声も上がっている。小児科を標榜する病院が減る一方で、小児科診療所の数は20年前からほぼ横ばいだ。しかし、このまま患者減少が続けば診療所も減少する可能性がある。

子どもたちにも異変が起こっている。受診の機会が減って何カ月も診察していない患者が増えるなか、神川医師は鬱症状や頭痛、腹痛、夜尿症(おねしょ)など、心理的不安やそれが原因となる症状の患者が増えていることに気づいた。

「子どもは新型コロナウイルスに感染しても重症化することがほとんどない。それにも関わらず、子どもたちはコロナに感染するのではという不安を想像以上に抱いていて、心身に影響が出ている。子どもの声を代弁することも小児科医の役割だが、子どもたちに関われない中でその機能が失われるのではないか」と神川医師は懸念する。

民間小児病院も財政支援を要望

日本小児科医会は9月11日、厚労省に「小児科消滅阻止に向けた緊急要望書」を提出し、小児科医による子どもの遠隔健康相談の創設や迅速検査を包括外にする保険請求などを求めている。

一方、全国の民間小児病院も財政支援を求めて厚労省に要望書を7月に提出した。要望書を取りまとめた土屋小児病院(埼玉県久喜市)の土屋喬義理事長は「小児病院の病床は稼働率を90%以上にしてやっと収支トントン。コロナ患者を受け入れる病床を確保するため、(病床)稼働率は低下している。外来患者数の大幅な減少が続く中、空床への補償があっても大幅な赤字の解消には至らない」と話す。

コロナ禍を機に患者の減少や受診行動の変容は続くだろう。特に小児科はその影響が甚大だ。コロナ禍は外来患者の診療をできるだけ多くこなし、病床をほぼ埋めなければ黒字化できない小児医療体制の限界を浮き彫りにした。小児医療を存続させるためには余裕ある医療体制への見直しが必要だ。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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