日本がデジタル化で遅れる決定的な構造要因 国家・産業・企業における競争戦略を考える

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問題は、IT産業が建設業以上に多重的な大手・下請け構造により既得権益が守られていることです。そのためシステムを「どこか1社のものに統一」するのは至難の業です。政府が7月に発表した「骨太の方針」にも「ベンダーロックイン」という言葉が紹介されています。「システム改修を開発ベンダー(事業者)しか実質的に実施できないなど、特定のベンダーに依存せざるをえない環境のこと」です。この既得権益を打ち破れるかどうかが、1つめの課題です。

実際、菅首相はすでに「自治体システムを2025年までに統一する」よう指示をしています。スピード感が求められているなかで「5年後」という時限は率直にいって「遅い」との感想を筆者は持ちましたが、それはシステム統一の難しさを熟知しているからでもあるのでしょう。

「しっかり計画してから実行」では遅い

第2の課題は、計画~実行プロセスにあります。マイナンバーを中核に据えた公的サービス拡充を含めて、日本的な「しっかり計画してから実行」方式が想定されています。しかし、環境変化が目まぐるしい昨今、これでは時間がかかりすぎ、完成した頃には必要なシステムも変わっているおそれがあります。リスクを恐れるあまり綿密な計画を立てないと動き出せない「大企業病」も、ここに起因するところが大きいのです。

そこでITの世界では「アジャイル方式」が浸透しつつあります。アジャイル方式とは、綿密な計画よりも「大胆なビジョンのもとでまずやってみて、それから高速にPDCAサイクルを回すことで改善を進めていく」開発手法のことです。これこそ米中メガテック企業、あるいは国際競争力の高い小国が採用している手法です。

端的に言えば、計画に時間をかけるようではDXとは言えないのです。今回のデジタル庁構想こそ、まずは何かをアジャイルで始めることが肝要と私は考えます。小さい成功事例を作り、その成果を広げていくのです。その意味では、現在検討されている「行政手続きにおけるハンコを廃止し、電子契約に切り替える」動きは試金石となるでしょう。やはり既得権益層からの反対の声が大きい分野ではありますが、ここで頓挫するようでは、オンライン診療化もオンライン授業化もおぼつきません。

第3の課題は、日本のセキュリティーの脆弱性です。

そもそもサイバーセキュリティーの世界では「万全なセキュリティー」は存在しないとするのが常識です。サイバーセキュリティー先進国であるイスラエル、アメリカ、中国でもサイバーセキュリティーのテクノロジーは日々進化しており、どのようなセキュリティーもすぐに打ち破られてしまうのです。また、イスラエルがサイバーセキュリティーの最先端になりえたのは、皮肉なことに「日々攻撃を受け、また攻撃をしているから」にほかなりません。

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