アメリカが直面する雇用対策のジレンマ--ブラッド・デロング カリフォルニア大学バークレー校教授

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 短期的に雇用を増やす方法は二つある。まず財政政策を通して財とサービスの需要を増やすことだ。そして企業が需要の増加に対応して雇用を増やすのをただ座って見ていればいい。もう一つの方法は、政府が直接人々を採用することにより雇用を増やすことである。この場合、財とサービスが増えるかどうかを心配する必要はない。

最初の方法のほうが好ましいのは言うまでもない。というのは、企業活動や市場機能を通して単に雇用が生まれるだけでなく、必要な製品が多く生産されるからだ。

ただ、その政策の問題点は即効性がないことだ。ノーベル経済学賞の受賞者である故ミルトン・フリードマンが主張したように、景気政策の効果が出てくるには、“時間的なラグがあり、そのラグも一定していない”。したがって、年末までに雇用を増やそうとした場合、政策効果を十分に発揮させるためには、少なくとも1年以上前に政策を発動しなければならないのだ。

中国などの一部の国は1年前にも雇用創出のための政策を実施しており、それが現在になって効果を発揮している。これに対してアメリカは1年前に政策を発動しなかったため、現在、失業率が10%を上回る状況が続いているのだ。

だからといって、オバマ政権が雇用を増やす努力をしなかったというわけではない。1年前、同政権は次の五つの政策を打ち出した。

(1)追加的な財政支出
(2)財務状態が極めて脆弱に見えた銀行に対する資本増強
(3)リスクの耐用度の低い民間部門が保有するリスク資産を減らすことを目的とした、財務省など政府機関による資産の購入
(4)極めて低水準のフェデラル・ファンド金利を維持することによる、金融緩和の継続
(5)FRB(連邦準備制度理事会)による市場介入政策の拡大

昨年2月に行われた“ストレステスト(大手金融機関の健全性をチェックする資産査定)”は、金融部門が十分な資本を調達したことを示唆した。それに加えFRBは超低金利政策を今でも継続している。

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