TOEIC満点でもスピーキングを怖がるワケ 日本の英語教育を変えるキーパーソン ソレイシィ(3)

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ソレイシィ式スピーキングテスト

安河内:英語を使って何ができるかを判定するcan-doリストみたいなものですか?

ソレイシィ:can-doリストとはちょっと違います。SPM Interview Testでは、採点者が受験者の1分間の発話を聞きながら、評価基準表を基に採点するのですが、従来のスピーキングテストのように、評価基準が細かい項目には分かれていないのです。

細分化された評価基準法はrubricと呼ばれているのですが、受験者の発話を聞きながら「Cの1」か「Cの3」というような細かい判断を下すときに、このrublicを使います。

でも、長い間、主流だったペーパーテストの時代から移行したばかりという背景もあって、100人もの受験者の発話を聞いて、100人それぞれのレベルを、はたしてどれだけの採点者がつねに正当な評価をし続けられるのか、という大きな疑問が残ります。

安河内:実際のところ、100%公正な評価を下すというのは、どんなテストでも不可能ですよね。主観を完全に除外するのも難しい。

ソレイシィ:おっしゃるとおりですね。それをどう改善、克服するかは、今、存在しているスピーキングテスト全体で考えていかなければなりませんね。

たとえば、私が開発したSPM Interview Testでは、採点基準はシンプルに2つだけです。ひとつ目は前回、お話ししたSPM(Sentence Per Minute/1分間当たりの発話率)で、2つ目はoverall eloquence(全体的な雄弁さ)です。

「雄弁さ」の評価ですが、halo effectを容認したsubjective score(主観的な評価)で行います。評価者は「今の話し方は雄弁だな」と感じるところにマークを入れていきます。雄弁さを感じる部分は、使う文法や語彙、または文の組み立て方、比喩の使用、結論のまとめ方など多岐にわたります。マークがいくつ付いたかで、雄弁さの質を評価します。

そして客観的な評価基準として、ひとつ目のSPMを使います。Sentence Per Minute、つまり1分間のスピーチの中に、採点者に理解可能なセンテンスがいくつあったか、文の数をカウントするのです。

安河内:でも、センテンスは長いのもあれば短いのもありますよね。

ソレイシィ:ええ。細かく言えばclause(節)も含めて数えます。節とセンテンスを数える基にします。確かに、台本なしで話したり、会話したりするときには、どこまでが節やセンテンスなのかをジャッジするのが微妙な場合もたまにあります。

でも、私がテストを開発するために行ったリサーチでは、確実な傾向がつかめると考えています。そもそも1分間当たりの「単語数」を数えるWords Per Minuteであっても、もめることは多々ありますからね。たとえば、firemanやback-up planといったものは、one wordなのかtwo wordsなのか判断が難しかったりするのです。

安河内:長い単語もあれば短い単語もある。aやtheも一語になりうる。

ソレイシィ:そうですね。superstitionは1語で、the superstitionだと2語なのか、とかですね。この数え方がいいという完璧なセグメント化の方法はありませんが、私のスピーキングテストでは、SPM(1分間当たりの発話率)をベースにしているのです。もともとこのテストは、博士論文のテーマとして作成したのですが、その論文には13人のスピーチを掲載して、文や節をカウントし、話し方を分析しました。

SPM をカウントすることで、客観的なはっきりした数値が出せます。この数は、スピーキングにおいて透明性のある基準として、学習者がセルフチェックやトレーニングに利用することもできます。

SPM Interview Testのもうひとつの特徴は、話し方にジャパニーズアクセントがあっても、日本語的な文の組み立てがあっても、文に関連性があって意味が通じれば、それも1文としてカウントすることです。日本人だけでなく、どこの人のどんな話し方であっても同じです。英語のように先に結論を言うのでも、あるいは逆に最後に持ってくるのでも、どちらであっても対応できる評価方法です。

今は「ネイティブ同様に話さないとスコアが取れない」と勘違いしている人もいると思うんですね。スピーキングの場合は、答えにバラエティがあっていいのです。これは重要なことです。だからこそ、「この言い方も、あの言い方も、その言い方もOK」でありながら、客観的な基準があることが必要なのです。

ではこの基準において、どんなスピーキングがダメかというと、まず十分な発話率がないもの、そして逆に発話率が高すぎるものです。早口すぎると、スピードが速すぎて聞き取れません。結果的に通じない、ということになってしまいます。

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