生物が「オスとメスとに分かれた」究極の理由 多様性を求めたからこそ人間は絶滅から逃れた

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ただし、「競争」といっても、遺伝子や細胞に意思があって増え始めたわけではありません。単に限られた資源の中で先に増えて資源を消費した方が「生き残る」という結果論にすぎず、増える=コピーを繰り返す、というDNAの化学反応自体は偶然に生み出されたものなのです。

やがて単細胞生物同士がくっつき多細胞生物が誕生し、多細胞生物はさらに複雑な構造を持つ生物へと変化を繰り返していきました。単細胞生物にしろ、多細胞生物にしろ、最初のうちは無性生殖=自身のコピーで増殖をしていました。

寄生者であるウイルスとの戦い

ところが、ここで困ったことが起こり始めました。生物が高度化するに従い細胞にとりついてエネルギーをもらおうとする寄生者が進化してきます。これがウイルスやバクテリアなどです。宿主としてはエネルギーを吸い取られたら、当然増殖の効率が落ちてしまいます。だから、宿主である細胞生物体もエネルギーを取られないように進化します。

例えば、細胞の殻を硬くして寄生者が侵入しにくくしてみたり、免疫を発達させたりと、抵抗力をつけるわけです。そして寄生者もそれを突破しようと自身の構造を変化させ、宿主との間で進化のいたちごっこが始まります。これを軍拡競争型共進化といいます。

そのとき、分がいいのはDNA構造が単純で世代交代の早い小さい寄生者です。次から次へと新手の寄生方法が編み出され、宿主は進化が追いつかなくなります。

寄生者の素早い進化とは、宿主にとっては、自らのコピーの存続に関わる劇的な環境の変化にあたります。この絶え間ない環境変化に対抗するために宿主生物が編み出した戦略が「遺伝子を宿主の間で交換する」という画期的な方法、すなわち有性生殖でした。この方法によって、宿主生物集団内の遺伝子の多様性を高めることで、寄生者の蔓延を防ぎ、それぞれの宿主生物の子孫を残す確率を上げたのです。

ただし、有性生殖が登場した時点ではまだオスとメスという性は存在しませんでした。例えば、単細胞生物のゾウリムシは普段は無性生殖で増えますが、ある程度、細胞分裂を繰り返すと、ほかの個体と接合(いわゆる合体)して、お互いの遺伝子の交換を行います。この接合は有性生殖の先駆けと考えられます。

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