迷走する理研、エリート研究所の危機 「科学者の楽園」は何につまずいたのか

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理事を務めた経験もある理研OBは「創立100周年を前に、今回の問題はタイミングが悪い」とこぼす。理研は、タカジアスターゼやアドレナリンの発見で知られる高峰譲吉氏の提唱を受け、1917年に設立された。

そして、研究所の成果を社会に還元することに力を入れ、黄金時代を築いたのが3代目所長の大河内正敏氏である。当時対立していた物理部と化学部を廃止し、研究員に広い裁量を持たせる目的で新設された主任研究員制度は、理研の特徴的な制度として現在も続く。

「科学者の楽園」とも呼ばれる自由な気風を育んだのが、この大河内所長時代だった。戦後は解体の危機に直面したものの、財団法人から株式会社に形を変えて生き残り、ノーベル賞受賞者も輩出している。

大河内精神に心酔

2003年に独法に移行し、初代理事長に就いたのが野依氏。同氏は研究成果を社会に還元した大河内精神に心酔しており、「世の中に役立つ理研」など五つのビジョンを「野依イニシアチブ」として掲げ、陣頭指揮を執ってきた。そうした中、特定法人という新たな制度は、「理事長の思いが凝縮したもの」(理研職員)だった。

野依氏の改革案にはもっともな点があった。独法制度の下では、5年間の中期計画策定や効率化を要求されるが、自然科学の研究は成果を予見できるものではない。また、世界的な人材の獲得競争が熾烈化する中、給与は国家公務員並みと法律で定められており、研究所は独法の枠組みに適していないという議論は以前からあった。

予算規模で国内トップクラスに入る理研だが、世界に目を転じると、米国立衛生研究所やドイツのマックス・プランク研究所など、上をいく機関は複数ある。マックス・プランクがほかの国の研究所との提携を加速するなど、覇権争いも活発化している。

現在の枠組みでは世界の研究所と戦えない。特定法人になれば研究の自由度が高まり、報酬上限がなくなって優秀な人材も獲得できる──。野依氏はそう考えていたはずだが、実現は遠のいた。

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