マスコミの煽りがPCR検査を儲かる商売にした 「陰性証明」というお札(ふだ)バブルの弊害

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このことがシニカルな形で現実的な問題になりつつある。それは、非医療におけるPCR検査需要の増大が、医療現場での本当に必要な検査の障害となるという事態である。

どのような形で障害となるかに入る前に、現状で非医療の検査がどれだけ行われているのかについて考えておきたい。上述した8月末時点での1日当たり約2万件という検査件数には、非医療の検査や保険適応外の検査は入っていない。保険適応であっても、スクリーニング検査については報告の段階で含めていない施設も多いと考えられ、筆者の考える「不必要で無駄な」検査はこの統計に含まれない傾向があると推測される。

つまり、発表されている実施件数の何倍もの数の不必要で無駄な検査がすでに毎日行われていると考えられるのだが、その実数のデータはどこを見てもみつからない。どうやら誰も把握していないようである。そのうえで、非医療の需要が医療現場に与える影響を考えたい。

高価な民間検査が医療需要を追い出してしまう

非医療の需要は診療報酬とは無関係なので、すべて自由市場において、質、価格、量が決定されることになる。まず質についてだが、そもそもの動機が陰性ほしさなので、検査の感度が悪ければ悪いほど顧客の満足度は上がる。

これは一種の市場の失敗ともいえる状況であり、市場を適正に機能させるためには、非医療の検査についての検査精度も本来は行政が管理する必要がある。2次補正予算の中に「外部精度管理調査」の項目があるが、問題はこの「外部精度管理調査」制度が自由診療や非医療の検査についても適用されるものであるのかが、はっきりとしていない点である。非医療検査に関して、もしこのまま規制が及ばない状態が続けば、市場はルーズなサービスをより選択するよう働く可能性が高い。

それと同時に、医療の検査には確実にこの外部精度管理が適応されるため、検査会社から見れば、医療需要に応えるよりも、非医療・自由診療の需要に応じたほうがビジネスとして楽ということにもなりうる。そのようなことが実際に起こってしまえば、医療側の検査需要はますます後回しになり、相対的に需要逼迫・供給不足の傾向がより加速されることになる。

次に価格であるが、現在の自由市場での相場は1件4万円ほどとなっていることが国会でも議論されている(8月19日、衆院厚生労働委 閉会中審査の動画)これは、医療における外注検査の1万8000円という額をはるかに超えるものだ。非医療需要の将来的な不安定性という点をいったん無視すれば、1万8000円よりも4万円出すところの検査を請け負ったほうが儲かることは幼稚園児でもわかる。

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