「政権奪還」狙うバイデン=ハリスの強みと弱み 「対中・増税・環境」に注目で市場大荒れ予想も

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一方、ハリス氏の弱みについて中林氏は、「ハリス氏はもともと民主党が強いカリフォルニア州選出の上院議員。大統領選で勝敗のカギを握るのは中西部ラストベルトの接戦州であり、バイデン氏が勝つための援軍としてはやや弱い」と指摘する。

世間の関心が人種問題にシフトしたことで、「民主党としてアイデンティティー・ポリティクス(人種・民族・性別などの特定集団の利害に沿った政治)に回帰せざるをえなかった」(中林氏)。それによって候補者選択の条件が狭まったともいえる。

「中国の台頭を許した男」との攻撃も

前嶋氏はバイデン氏の弱点について、「代表的なエスタブリッシュメント(既成勢力)で、政界での経歴の長さゆえに叩かれやすい」と指摘する。「バイデン氏は今世紀に入って上院の外交委員会委員長やオバマ政権の副大統領を務めていたため、“中国の台頭を許した男”とトランプ陣営は攻撃できる」。

バイデン氏は昨年5月の支持者集会で中国に関し、「彼らは悪い人々ではないが、われわれにとっての競争相手ではない」と発言。中国の脅威を過小評価しているとしてトランプ氏だけでなく、他の民主党候補からも批判を浴びたことがある。バイデン氏の次男ハンター氏と中国の国有企業の関係についてもトランプ氏は攻撃材料としている。

「バイデン氏としても、香港、ウイグルなどの人権問題や南シナ海などの安保問題を中心に中国に対する厳しい姿勢を示してくるだろう」(前嶋氏)。アメリカ国民の反中意識がかつてなく高まっている中、「親中派」というレッテルをいかに払拭できるかが試されることになる。

「これまでバイデン氏は(コロナ禍の中で)デラウェア州の自宅地下室に“隠れる戦略”を採ってきた。だが、今後は党大会を経て“表”に出ていくことになり、トランプ氏との討論会でやり込められてボロボロになってしまう可能性もある。討論会が賭けになるだろう」。前嶋氏はそう見る。

大統領候補同士のテレビ討論会は9月29日、10月15日、同22日の3回に分けて行われる。中林氏は、「バイデン氏は普段あまりキャラクターが立っておらず、熱量が小さいので、トランプ氏とのTV討論会を見て判断しようという有権者が多いのではないか。特に浮動票の人たちは投票直前に誰に投票するかを決める人が多いと見られる」と言う。

加えて、バイデン氏は環境・エネルギー政策や社会保障政策のための巨額投資を掲げる一方、その財源として急進左派ほどではないにせよ、大企業や富裕層に対する増税策を打ち出している。大統領選挙に当たって明確に増税を主張するのは、1984年の大統領選で共和党の現職ロナルド・レーガン氏に大敗した民主党ウォルター・モンデール元副大統領以来とされる。36年来のタブーを破ることになる戦略にはリスクがつきまとう。

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