コシヒカリ暴落が農家を直撃 「安い新潟米」投入で消耗戦へ

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 現在は、中山間地区を対象とした補助金3万円(10アール当たり)を支えに、何とか耕作放棄を食い止めている状態だ。米価下落で農家の赤字が膨らむ中で「コメ作りは完全に趣味か道楽になってしまった。兼業農家が、自分の農地を守るためだけに耕している」(高橋さん)。

低価格米に本格参戦 農家の手取りは減少

 新潟の農家が苦戦している最大の要因は、農協の買い取り価格引き下げだ。過去3年間の“大量売れ残り”の反省を踏まえ、JA新潟は販売戦略を抜本的に見直した。07年産の新潟コシヒカリを前年より200円安い“5キログラム2000円”という店頭価格に設定したところ、消費者は飛びついた。しかし、大手卸は怒りをにじませる。「いくら何でも安すぎる。他県産米の下落を招いたことは間違いない。07年産の米価下落は“新潟ショック”も影響している」。

 それでも新潟JAは「07年産は全量を売り切った」と満足げだ。そうはいっても、2000円をさらに下回る価格設定は、新潟産コシヒカリのブランド力を傷つける懸念がある。そこで次の戦略へとコマを進め始めた。

 07年12月26日、新潟市内では生産調整のノルマを地区ごとに振り分ける会議が開かれていた。

 この日、目玉となった議題は二つある。一つ目は、生産量を前年比4・2%減の57万トンまで減反し、米価下落を食い止めること。二つ目は、コシヒカリの生産を12%以上減らし「こしいぶき」の作付けへ誘導することだ。

 こしいぶきとはコシヒカリの妹的存在で、価格が3500~4000円(10キログラム)と、2割程度安い。「コシヒカリにはかなわないが、味もそこそこおいしい」(JA新潟)。あきたこまちや関東コシヒカリと同じ価格帯ということもあり、銘柄米としての値頃感は抜群だ。「コシヒカリの作付けを70%(07年82%)まで引き下げて、こしいぶきを増産する。他県より出遅れた、業務用の開拓も進めたい」と、新潟県農林水産部の岡村均農産園芸課長も力を込める。

 しかし、問題は山積みだ。低価格なこしいぶきに転作するということは、農家の手取り減にも直結する。「減収分の一部は、JA新潟が補填する」と新潟県農林水産部は説明する。だが、JAがコシヒカリを買い取った利益の一部を、こしいぶきの補填に充てる仕組みでは、すぐに行き詰まる。

 また、こしいぶきが浸透するかどうかも未知数だ。東京都内のコメ店店主は「富山の『はえぬき』が品質検査で新潟コシヒカリを上回っても、消費者はコシヒカリを選ぶ。こしいぶきなどという知らないコメに、消費者が手を伸ばすだろうか」と推測する。

 冒頭の長岡市・小野さんは「日本一高く売れる新潟の稲作が潰れるということは、日本の稲作が潰れるということ」と嘆息する。産地間競争が激しくなる中、王者の新潟も低価格路線という消耗戦に参戦してきた。新潟コメ王国は、ブランド力と価格競争の間で揺れている。
(週刊東洋経済編集部)

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