北朝鮮核実験、次は核弾頭の軽量化アピールか 故・金正日総書記のご学友が見る北朝鮮の核事情

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最初の理由については、崔所長が金日成総合大学留学中に聞いた、金総書記の言葉が印象的だと説明する。金総書記は崔所長に対し、「首領様(金日成主席)はいつもソ連や中国を信じてはいけない。信じるべきはわれわれの力のほかにないとよくおっしゃられる」と発言していたという。崔所長にとってはそれから現在まで見てきた北朝鮮の政治や外交は、「やはり他国に頼らず、自分たちの力だけを頼りにする“主体的”な傾向が強いため」と説明する。

二つ目の理由についても、北朝鮮は過去、中国とソ連の狭間でバランスを保ちながら自分たちの利益になる外交運営を行ってきた経験があり、その経験の蓄積が今でも生かされている点を崔所長は挙げる。それは、現在でも米中が東アジアで進めている外交攻勢を、北朝鮮はきちんと見通している、と言う。

「米国が中国に、北朝鮮に圧力をかけて核開発をあきらめさせようと注文しているが、北朝鮮が中国からの圧力で状況が苦しくなれば、むしろ転向して、北朝鮮は米国側に立つ選択を行う可能性が高い。北朝鮮を自分たちの側に引き寄せることは米国にとって大きな外交的成果だ。中国に背を向けた北朝鮮が米国と友好関係を持つことは、中国にとって多大なる悪夢と言わざるを得ない。北朝鮮に圧力をかければかけるほど、中国から遠ざかる。したがって、中国による対北朝鮮圧力には限界があるのだ」

金正恩訪中は年内無理か

そんな中国と北朝鮮の今後の関係を占う「金正恩第1書記の訪中」について、崔所長は「年内は難しいのではないか」と予測する。「訪中問題は経済問題ではなく核問題と直結している。北朝鮮の核問題を協議する6者協議が再開されていない段階で、中朝の指導者が協議すべき事項はそれほど多くないため」と説明する。

金正恩政権についても崔所長は「政権は予想以上に早く、安定してきている」と言う。「北朝鮮の官僚たちから、この20年で経済は最もよいという話をよく聞くようになった。食糧事情も住宅供給も改善し、自動車も増え、新規開業する食堂なども目に見えて増えた」と言う。崔所長は特に、昨年から北朝鮮の工場や企業所で始められた「請負生産制」の効果が出始めたこと、コメは東南アジアから輸入し、石油はイランやロシアからの輸入が増えているなど、経済的活力は増大していると言う。最近では「米国の圧力さえなければ、さらに状況は良くなるという声が聞こえてくることもあり、自分たちの手で安保と経済の二兎を追えるという自信を持ったようだ」と付け加えた。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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