台湾「学生の乱」の陰にTPP巡る米中綱引き 2つの大国の狭間で亀裂が深まる台湾の現状

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学生が立法院から退去した4月10日、中国の李克強首相は海南省で開かれたボアオ・アジア・フォーラムで演説。15年中にRCEPを成立させることに意欲を示したうえで「中国はTPPにもオープンだ」と言明した。この半年ほどで中国のTPPへの対応は明らかに積極的になってきた。

中国がTPP交渉に参加するとなれば、その枠組み自体が大きく変わる可能性がある。台湾は一段と難しい舵取りを求められている。

台湾社会のパラドックス

16年に予定されている総統選挙を控え、ECFAをめぐる台湾での対立は長期化する可能性が高い。馬英九総統周辺からは「このままだと、総統選は通商政策をめぐる事実上の住民投票になりかねない」と懸念の声が漏れる。

中国にのみ込まれないためには中国に接近しなければならないというパラドックスは、台湾社会に深い亀裂を走らせている。パラドックスの存在を認める側と、「そもそも信用できない中国に接近するべきではない」と考える側が歩み寄るのは至難の業だ。

李遠哲氏は今回の学生運動に大きな期待を抱く

この亀裂を修復するには、何が必要なのか――。「科学者の国連」と称される国際科学会議の会長を務める李遠哲氏は、「今回の学生運動には大きな期待を持った」と語る。李氏は台湾出身者で唯一、ノーベル賞を受賞した人物(1986年化学賞)で、台湾社会で広く尊敬されている。

「学生たちは決して単なる“反中”ではなく、監督条例の提案など建設的な態度を取っている。自分たちが率先して社会を変えていくという積極的な考え方は、長期的には中国にも変化を及ぼすだろう」(李氏)

「中国を信用するか、しないか」の神学論争が終わることはない。巨大な中国と、いかに台湾の人々の権利を守りながら付き合っていくか。中国にはない「民主主義」が、最大の武器になるのは間違いない。それを生かして、中国との関係をルール化、透明化する息の長い取り組みが求められている。

「週刊東洋経済」2014年5月3日-10日合併号<4月28日発売>の「核心リポート」に加筆)

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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