セブン、米コンビニ「2兆円買収」再挑戦の賭け アメリカで「日本流コンビニ」は浸透するのか

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この買収は、2度目の挑戦だった。今春、セブンによるスピードウェイ買収は約220億ドルで検討していたとされるが、折り合いがつかなかった。当時は巨額の買収費用に加え、ガソリンスタンドを中核とする店舗を買収することに、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点において、セブン&アイの社内からも懸念の声が上がっていた。

井阪社長は今回の巨額買収に強い自信をみせる(写真は2019年10月の決算説明会時、撮影:今井康一)

だが新型コロナの影響で石油需要が減少する中で、中核の石油精製事業が大幅な赤字となったマラソン側が再度売却を検討したと見られ、「千載一遇の案件が出てきた」(井阪社長)。

巨額買収が決定したセブン&アイHDは3日の説明会で、割高な買収ではないことを繰り返し強調した。EV/EBITDA倍率(企業価値をEBITDAで割った値)は13.7倍に上るが、アメリカでの節税効果30億ドル、重複する店舗約200店の売却効果10億ドル、不動産など資産を売却しリース契約で借りるセール&リースバックで50億ドルの効果が見込めるという。それらを踏まえると、実質的な取得価額は210億ドルから120億ドル(約1兆2670億円)となり、EV/EBITDA倍率は7.1倍まで下がると、会社側は主張する。

UBS証券の守屋のぞみアナリストは、「210億ドルの買収額は額として大きいし収益性の面からも割高だが、セール&リースバックなどを踏まえて4000店弱を120億ドルで手に入れられるなら必ずしも割高ではないだろう」と評価する。

日本流は浸透するのか

巨額買収の資金の内訳は、ブリッジローン130億ドル、セブン&アイHDから米セブンへの増資80億ドルで賄う予定だ。新株発行による資金調達はせず、株式が希薄化しない点も説明会で強調された。

買収が発表された3日のセブン&アイHDの株価は、一時は前営業日の終値より268.5円下がる2937.5円にまで急落。だがその後の株価は買収発表前の水準まで戻している。UBS証券の守屋アナリストは、「株式市場では買収規模への懸念がまず広がったが、実質取得価額を120億ドルまで抑えるスキームや株式の希薄化がないという説明が出て、懸念が少し和らいでいる。ただ、米セブンの強みを生かして物販の売り上げ増加を会社が説明する時間軸で実現できるのかは、規模が大きいので丁寧に見る必要がある」と話す。

現在米セブンはセブン&アイHDの傘下にあるが、もともとはアメリカ発祥のチェーンで、セブン-イレブン・ジャパンの前身がライセンス契約を結び日本での展開が始まった歴史がある。ある小売業界関係者は、「『日本流を広める』というのは幻想。日本のセブンはアメリカ流を排したことで成功したが、(商品を強化するという)日本流をアメリカに植え付けるのはその裏返しで、有効なのか疑問だ」と懸念する。

また、買収で見込むシナジーを生むための施策を実行できるのかも注視する必要がある。米セブンのデピント社長は、セブン&アイHDの井阪社長が掲げる米セブンの商品強化に以前から賛同しているようだが、担当者レベルまで方向性が十分に浸透しているかは未知数だ。

懸念点として残るESG(環境、社会、ガバナンス)について米セブンは、以前は2027年の二酸化炭素の排出量を2015年比で20%削減する目標を掲げていたが、今回の買収を受けて40%へと引き上げるなど、目標をより厳しく設定した。

コンビニ事業として見ると、合理的にも見える大型買収。ただ計算どおりに統合が進むとは限らない。2兆円を超す巨額買収は、セブン&アイにとって決して失敗が許されない大勝負となる。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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