農業よ農民よ!経営者たれ 直売所革命vs「6次産業」化--木内博一・農事組合法人和郷園代表理事/長谷川久夫・農業法人みずほ代表取締役社長

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とはいえ、当時の和郷園は年商10億円。冷凍工場の投資額は土地代抜きで5億円。震えの来る大投資だ。

長い取引先の一つ、パルシステム生協の高橋宏通(GPS専務)はハラハラしていた。「冷凍は1年在庫を抱える。資金繰りは大丈夫か。停電になったら商品は全部がパァ。世間はそんなに甘くないよ」。高橋の下に金融機関から電話が入っていた。「木内さんから融資の申し込みがあった。私どもが調査に行っても、中身がよく見えない」。

が、木内は周到だった。準備に5年。社員2人を冷凍会社に研修に出し、脱水機ならこれ、カッティングマシンはこれ、一つひとつ品定めし、実地の生産性を計測しながら、手作りでラインを組み上げた。専業大手に比べて軽装備。その分、現場を外国人に依存する専業に対して、和郷園は全員日本人。日本語でチェックし、指示が徹底する体制を整えた。

だが、本当のライバルは、もちろん中国だ。当時、すでに「国内の冷凍工場は成り立たない」とささやかれていた。木内が中国の冷凍工場を足で調べて、わかったことがある。ホウレンソウの根本の土の汚れを除くために、膨大な人間を投入している。

ならば、根本から2~3センチ上で刈り取れば、その手間が省ける。さらに、軽装備とはいえ、一連のプロセスの自動化はこちらのほうがはるかに進んでいる。「中国は1時間500キログラム処理するのに、100人並べている。こちらはイザとなれば、8人で動かせる」。賃金が10対1でも互角に渡り合える工場を作り上げた。

親交のある農業技術通信社の専務・浅川芳裕が言う。「慎重。50歩先、100歩先を見て、半歩しか進まない。が、結果的に9年前にやると言ったことはすべてやっている」。

市長選敗北から再出発 農家が輝くために

長谷川がみずほの村一筋になったのは、挫折の果てだった。

高校を卒業して「農業を継ぐ」と親に告げると、「やったら、よかっぺ」。父親は保険のセールスマンに転身した。昭和40年代、機械化のコスト圧迫の下、すでに親子3人が農業専業では食えなくなっていた。

長谷川は果敢に商品作物に挑戦した。スイカや三つ葉、そして緑化樹木。が、いずれも市場価格に振り回され、生産費が回収できない。

それなら、と相対(あいたい)で価格を決める造園業に転じたが、造園業は相当数の人を雇う。稼働の繁閑をならすため麦作の大規模生産に進出。先に見たように、ここで「規模の不経済」にブチ当たった。第1の挫折である。

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