農業よ農民よ!経営者たれ 直売所革命vs「6次産業」化--木内博一・農事組合法人和郷園代表理事/長谷川久夫・農業法人みずほ代表取締役社長

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農協の罪も重大だ。農家と農協の取引は農協バンクの通帳のうえで相殺される。農作物がいくらで売れ(販売)、肥料がいくらなのか(購入)。自動的に相殺されれば、作物ごとの原価意識など育たない。

しかも、農協に出荷された農作物は「共選」「共販」される。選別基準は、LMSのサイズのみ。「いいミカンも悪いミカンもごちゃ混ぜ。それじゃ、努力する農家はいなくなる。消費者にとっても、品質を選べない流通とは、配給だろうよ」。

長谷川がみずほの村を設立したのは1990年。店舗は電柱などの廃材を活用し、「こんなところに客が来るか」と、地元のタクシー運転手が首をひねるような立地だった。

最初に出品した農家は6軒だけ。
「長谷川の店だから、買い取りなら(農作物を)置いてやる」。「それじゃ、あんたたち農家が育たないんだよ」。押し問答からの出発だったが、販売額は93年に2億円、2000年4億円と順調に拡大した。

『農業は繁盛直売所で儲けなさい!』の著者、日本総研主任研究員・大澤信一が言う。「大きいのは、自分の責任・自己裁量でやれる手応え。農家に限らず、今の世の中、生活も仕事も、手応えが希薄になってしまっているから」。

事実、親子2代で出品する会田賢一のやりがいは、「自分で値付けできる」ことだ。価格が決まるから、安心して投資もできる。「後から出品する人にも負けたくない」。病気にならないよう、丹念に余分な葉を摘み、出荷の荷姿も、ぬか漬け用は細いキュウリの束、一般調理用には太いキュウリの束と、細かく気を配る。「これはうちの顔だから」。

みずほの生産研究部長・高橋広樹は、筑波大学在籍中から、「農家を経営者に」という長谷川の思想に引かれていた。変革を志向し、かつ、上滑りな理想論には流れない。地に足を着けるのが、経営者である。

高橋の仕事は「土の健康診断」。みずほは自前の堆肥製造設備を持っているが、かといって、流行の有機農法、無農薬主義にはくみしない。「有機万能論はウソ。堆肥が過剰だと土が酸欠・メタボになる。作物に農薬の残留がないよう工程をしっかり管理すればいい」。要は、結果である。

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