昇降機フジテックがモノ言う株主に狙われる訳 過去最高益更新でも、日本の商慣習に疑問符

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こうした中、新興独立系の保守専業会社であるジャパンエレベーターサービスなどは、メンテナンス価格の安さを武器にシェアを約2割まで拡大。メーカー系企業の牛耳る市場に風穴を開けてきた。ただ、他メーカーのエレベーターのメンテナンス契約を奪わないという慣習が旧態依然として残っているのが実態だ。

こうした慣習は大手メーカーの収益を安定させる一方、新規設置台数以上にメンテナンス契約数を増やせない構造を作り出している。業界関係者は「海外では、他社製のエレベーターのメンテナンス契約をとることが頻繁に行われている。海外投資家からすると日本の慣習には違和感があるのではないか」と話す。

海外投資家も昇降機業界に熱視線

フジテックの株主のうち約4割は外国人投資家で、「昇降機業界はコロナ禍でも業績が大きく上下しない安定的な業界として海外からの注目が高まっている」(昇降機業界関係者)という。

5月にはフジテックの2.47%の株を保有するイギリスの投資ファンド「アセット・バリュー・インベスターズ」(AVI)も、フジテックに対して戦略の見直しや政策保有株の処分、ガバナンスの改善を要請していることを発表した。

フジテックは、2020年2月にイギリスの昇降機保守会社を買収し、2020年3月期は配当性向約40%、1株あたり50円の配当を行ったが、それでも自己資本比率は55%と高く、現預金と投資有価証券合計(642億円)で総資産の33%を占める。

また、株価はコロナ禍が拡大した3月中旬に底をつけ、7月6日には上場来高値を更新する2056円をつけた。7月28日現在の予想PER(株価収益率)は19.6倍、実績PBR(株価純資産倍率)は1.38倍と高値水準にある。

2019年の株主総会では、フジテックの提案する買収防衛策更新の賛成率は64%にとどまり、2020年の株主総会では内山高一社長への賛成率も84%にとどまった。良くも悪くも安定的な収益が約束されている業界構造の中で、海外投資家を中心に納得させる成長戦略を描くことができるか。フジテックと株主の攻防戦はまだまだ続きそうだ。

田中 理瑛 東洋経済 記者

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たなか りえ / Rie Tanaka

北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。報道部、『会社四季報』編集部を経て、現在は会社四季報オンライン編集部。食品業界を担当。以前の担当は工作機械・産業用ロボット、ドローン、医療機器など。趣味は東洋武術。

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