トルコの「ヴェステル」を知っていますか? 台頭する新興国の薄型テレビメーカー

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もう1つの新興メーカーは、トルコの家電メーカー、ヴェステルだ。日本ではあまり知られないが、デジタル家電から白モノ家電、LED電球などを幅広く扱う総合電機メーカーで、トルコ国内に欧州最大規模のテレビ工場を構えるEMS(電子機器製造サービス)事業者である。OEMおよびODMビジネスの顧客には大手テレビメーカーも含まれ、日本のテレビメーカーとはほぼ全社と取引しているという。欧州市場におけるシェアは1位のサムスン32.1%に次ぐ20.3%を誇る。

トルコメーカーが欧州でシェア2位

ヴェステルのエルドガンCEO

ヴェステルは145カ国で事業を展開しており、新たに成長を見据えるのが、アフリカ南部のジンバブエ、アジア・パシフィックのブータン、ブルネイ、ミャンマー、ミクロネシア連邦の5地域だという。日本での事業展開については「日本人は日本製品を好むため参入が難しい市場」(トゥラン・エルドガンCEO)と消極的。ヴェステルも曲面ディスプレイを搭載した大型テレビや、専用眼鏡を使うことで2人が1つのテレビで2コンテンツを視聴できるテレビなどを開発中。いずれも1~2年前にサムスンやLG、ソニーといった大手メーカーが発表した技術だが、画質などのスペックはともかく、TCLもヴェステルも恐るべきスピードで追随していることが見て取れる。

今回のGPCでは、調査会社ディスプレイサーチのディレクター、ポール・グレイ氏も講演し、「テレビ市場は成熟した。新しい要素が必要」と次世代テレビの市場予測を語った。このうち曲面ディスプレイを搭載したテレビは2015年に300万台超を出荷し、2017年には600万台にとどまる見通し。4Kテレビについては、2014年度の1000万台超から、2017年度は6000万台を出荷すると予測する。牽引役は中国や中東・アフリカといった地域であり、勝負を左右するのは価格競争力となりそうだ。

かたや日本のテレビメーカーに目を向けると、苦しい状況は変わらない。パナソニックはプラズマテレビから撤退し、尼崎工場を3月に閉鎖したばかり。テレビ用パネルの大半を外部調達に切り替えて、事業縮小を決めている。ソニーも7月をメドにテレビ事業を分社化する。今期で10期連続の赤字となる見通しで、テレビ事業の累積赤字は7000億円超のお荷物事業となっている。

日本勢に共通するのは、高画質なプレミアム商品に特化する戦略だ。しかしいかに美しい画質の4Kテレビを開発したところで、高価格製品を伸びしろの大きな中国やアフリカ・中東で売ることは難しい。成熟市場の日米欧や一部の富裕層などを対象に売り続けるしかない。その間も新興メーカーは、テレビの大量生産でノウハウを身につけて技術力を磨いてくる。日本メーカーがテレビ事業を存続させるハードルは上がる一方に見える。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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