《財務・会計講座》NPV(正味現在価値)とは何か?~超過利潤の源泉としての競争優位性

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図-2:不完全競争(独占)下における市場価格の決定
 このような超過利潤の発生は何も独占企業に限らない。上記の完全競争の条件が少しでも欠落し、自社が他社に比べ何らかの良い条件を有していれば、自社には超過利潤が発生することになる。これが「競争優位性」である。つまり、独占、寡占、そして自由競争下であっても他社に比べ何らかの競争上の優位性を持った企業は、平均的な競合他社に比べ、その競争優位性の強さに見合った超過利潤を手にすることができる。この毎年の超過利潤を事業リスクの大きさに見合ったリターンである資本コストで現在価値に割り戻したものがNPVである。他社に比べ相対的に何らかの競争優位性を持っており、その結果として超過利潤が発生するためNPVがプラスとなるのである。

 この競争優位性も長続きするものでない限りNPVは容易にプラスとはならない。NPVがプラスとなるような超過利潤があるということは、フリーキャッシュフローの式におけるEBIT(支払金利・税金控除前利益)の額が平均的な競合他社に比べて持続的に大きいということである。企業はフリーキャッシュフローを持続的に拡大し企業価値を更に増大させるべく、自社の競争優位性を構築し強化していくよう事業・経営戦略を立案、実行していくことが重要となる。

 こう考えてくると、NPVがプラス、少なくとも大きくプラスとなるような事業は、その辺には簡単に転がってはいないということが理解できよう。事業計画を策定しNPVがプラスとなった場合には、上記の完全競争条件のどの部分が欠落しており、自社として他社に比べどの程度の競争優位性を保持しているのかを慎重に検証してみる必要があろう。
《プロフィール》
斎藤忠久(さいとう・ただひさ)
東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業後フランス・リヨン大学経済学部留学、シカゴ大学にてMBA(High Honors)修了。
株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。
その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。
その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役を経て、現在株式会社エムティーアイ(JASDAQ上場)取締役兼執行役員専務コーポレート・サービス本部長。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2010年1月20日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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