iPhone"特需"の波に乗るファナック 連続減益から脱し2015年3月期は最高益を更新へ

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この特需の恩恵を受けるのが、ファナックで手掛ける小型工作機械の「ロボドリル」だ。同社ではここ数年、アイフォーンはじめスマートフォンの金属製筐体(きょうたい)を加工する設備として、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)などのEMS(受託製造サービス)企業に大量納入してきた。ファナックのロボドリルの累計生産台数は14万台で、複数の関係者によればそのうちの4割以上はホンハイへ納入した。

大半のスマートフォンの筐体はプラスチック製で、金属を切削する工作機械は通常使われない。ただアップルは「iPhone 4」(以下、4)にステンレス製、後に続く5や5sにはアルミ製の筐体を採用している(5cはプラスチック製)。

ロボドリルの納入は4が発売された10年頃から本格化。これを含むロボマシン部門の四半期売上高はピーク時の2012年9月~12月期に510億円を計上し、ファナックの3部門の中で最も売り上げが多い部門になったこともある。

 特需発生3つの理由

だが、特需はそう長くは続かなかった。12年末頃からEMSからの発注が来なくなり、13年4~6月期のロボマシン部門の売上高は152億円にまで落ち込んだ。5向けの設備需要が一巡したことに加え、後継の5sでは筐体の素材や形状の変更が行われなかったことが要因とみられる。需要の落ち込みは13年いっぱい続き、14年3月期は2ケタ減益となり、2期連続の減収減益となった。

ここに来てスマホ特需が立ち上がったのは、以下いずれかの理由が考えられる。1つは大幅なデザイン変更がうわさされる次期アイフォーンに向けた設備投資。2つ目は、「ファナックはホンハイ以外の複数のEMSからもロボドリルの大規模な注文を受けている」(機械商社の関係者)と言われるように、アップルが生産の委託先を広げているとみられること。そして、3つ目は、かつて納入したロボドリルの更新需要だ。

次期アイフォーン投入に向けた特需について、業界では「7月までは続くだろう」(工作機械メーカー首脳)とみられている。また、上期好調を予想するファナックも「期後半にはそれら(一部のIT産業)特殊需要の一巡が想定される」と決算短信で説明している。月産5000台の能力を抱えるロボドリルの巨大な生産拠点である筑波工場は「再び繁忙期を迎えている」(ファナック関係者)。だが、特需が一巡すれば昨年と同様、稼働率が低迷するおそれがある。もっとも、そうしたアップダウンはファナックに限らず、アップルという”スマホの巨人”に関わる事業者に共通した宿命だろう。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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