産経・フジ「世論調査不正」が投げかけたもの マスコミ電話世論調査は本当に信頼できるか

拡大
縮小

世論調査の世界では1936年のアメリカ大統領選でのジョージ・ギャラップ氏の成功は有名な話となっている。

当時は「リテラリーダイジェスト」という総合雑誌社の世論調査が圧倒的に有名で、かつ信頼されていた。この大統領選でも購読者、自動車保有者などを対象に200万人の回答を得る大規模な調査を実施し、フランクリン・ルーズベルト大統領の再選はないと予測した。

一方、新参者のギャラップ氏は、収入や居住地、性別などを偏りのないようアメリカ全体の比率に合わせて抽出し(この方法を「割り当て法」と呼ぶ)、わずか3000のサンプルでルーズベルトの再選を予想した。結果はルーズベルトの勝利で、ギャラップ氏は一躍有名になった。

母集団の縮図をきちんと反映しているのか

ところが、そのギャラップ氏は1948年の大統領選でトルーマン候補の当選を外すという失敗をしている。調査方法は同じ割り当て法だったが、調査員が割り当てられた属性の対象者を見つける際、回答を得やすそうな人を主観的に選ぶなどしたため、結果に偏りが生まれてしまったのだ。この失敗から、調査員の主観を排除する「無作為抽出法」が生み出されることになった。

現在の電話調査も無作為抽出の形はとっている。しかし、調査対象は事実上無制限にあり、目標の回答数が得られるまで新たな調査対象に電話をかけることが可能となっている。逆に言えば、目標数に達した段階で調査が終了となる。これで母集団の縮図がきちんと反映していると言えるのだろうか。

疑問点はほかにもある。最近の電話調査は固定電話と携帯電話の両方を同時に行う「デュアルフレーム方式」の調査が広がっているが、両者のサンプル数の比率は会社によってまちまちである。母集団を正確に反映する比率をどう考えればいいのであろうか。

回答数が少ない世代について、各メディアはその数字を人口比に合わせて補正し、全体の数字に加算している。例えば20代の回答数が人口比に比べ極端に少ない場合、人口比に合わせて大きな回答数に増やす。しかし、少ない回答はその世代の縮図になっているのかも疑問であり、単純な補正が結果をより正確にしているかどうかはわからない。

国民の生活様式やプライバシーについての考え方が変化し、回答率の低下から新しい方法を取り入れざるをえなくなっている事情は理解できる。電話調査については科学的側面だけでなく、経験も積み重ね、国民の声をうまく引き出していると証明されているようだ。

次ページ世論調査がはらむ問題点とは
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT