飲み会もあるドイツのスポーツクラブ 第5回 いじめ・体罰と逆方向に向かう理由

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スポーツクラブは地域社会の一部

こうした「飲み会」にはドイツの社会的な事情がベースにある。第3回でも触れたが、学校の基本設計は午前中で終了、大人も職住近接。そのためスポーツクラブは学校・職場とは別の老若男女が日常的に集える場になっていて、日本のように「学業もスポーツも学校」「1日のほとんどを過ごすのが会社」というようなタコツボ型にはなりにくい。そして第4回で触れたように、年齢・職業・性別などを超えたメンバーの平等性を強調する文化がある。

 さらにドイツでは「競技スポーツ」以外に「ブライテンスポーツ(幅広いスポーツの意)」という分類があることが大きい。これは余暇や健康、楽しみに主眼をおいたもので、日本でいうところの生涯スポーツに近いだろうか。いずれにせよ競技以外のスポーツが概念化されており、それに伴うプログラムが豊富だ。この延長線上に数多くの「飲み会」があるともいえるだろう。

また「地域社会」というところから見ると、学校・会社以外の人間関係の「信頼の網目」を作ることにもつながっている。加えて、ドイツも高齢化社会に向かっているが、それに伴い40代以上のクラブメンバーが増加傾向にある。その目的は健康や余暇といったものが大きいのだが、クラブに「社会的つながり」を求める人も多い。(図参照)

 オリンピック級のハイレベルな選手も数多くいるドイツだが、それはドイツ・スポーツ全体で見るとほんの一握りだ。スポーツクラブは平等性と多様性に加え、メンバーの親交を深める機会や場所が充実している。こんなことから、いじめや体罰とはまるで逆方向に向かう力が働きやすいのではないだろうか。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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