TOEIC400点でインド流ビジネスに挑んだ男 全日空・杉野健治/五感をフルに使って相手の懐に飛び込め

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現在、インドには約5000人の日本人がいる。デリーには約3000人、ムンバイには約600人。韓国人は4倍の2万人近くいるという。自動車はマルチスズキが健闘しているが、電気製品はLG、サムスンが大きなシェアを占めている。

日本には優れた技術、感性があるが、日本製品をそのまま売っても受けない。徹底したローカル化が必要だと杉野さんは言う。

「日本の洗濯機は高度な技術で汚れを落とすとか、音が静かということをうたっている。でもインドでは、安くて頑丈がポイントなのです。インドではしょっちゅう停電があります。日本製のある洗濯機は止まると最初からやり直し。韓国製は途中から続きをやるから便利ですよ。インドではうるさくてもしっかり汚れが落ちて、停電に対応してくれたほうがいい製品なのです。これがローカライズでしょう。そのためには、やはり衣食住を共にしてインド人の生活を見ないといけない。ここが日本人が負けている原因だと思います」

大事なのは、語学力より意志

杉野さんがムンバイに来たときは、日系の不動産屋も人材派遣会社もなかったから、まず車を借りてドライバーを確保し、インド人にどこの不動産屋がいいかを聞いて、事務所を見つけ、人を採用していった。

杉野のデスクの上には、インドゆかりの品がずらりと並ぶ

「手探りでやっていくと、インドで商売するには何がポイントなのか、宗教やカーストは重んじたほうがいいなとか、人脈で動いているなとか、わかってくる。すべてを日系企業に頼って“日本村”に入ってしまうと、学んでいく場がなくなってしまうのです」

溶け込んで商売をしようと思ったら、最低5年はいて、スペシャリストになったほうがいいと言う。自身も本当に仕事ができるようになったのは、3年目からだったそうだ。

ビジネスには英語を使った。しかし杉野さんは赴任したときTOEIC400点だった。交渉のときは英語の得意な上司と一緒に行かないようにした。英語上級者のペースで話が進んでしまうからだ。わからないときは筆談もした。

「幸いなことにインド人も英語ネイティヴではないし、公用語が17もある国だから、相手の言葉を聞こうとする姿勢がある。何とかなりました。語学力より意志が大事です」

英語の勉強はいっさいしなかったが、帰国したらTOEICは700点を超えていた。

インドと日本の関係は良好だが、残念ながら庶民の日本のイメージはフジヤマ、ゲイシャというレベル。杉野さんは現在、インドに関心のある人たちと集まり、インド人に日本を紹介する映画を作れないかと画策している。

(撮影:尾形文繁)

仲宇佐 ゆり フリーライター

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なかうさ ゆり / Yuri Nakausa

週刊誌のカルチャーページの編集・執筆を経て、美術展、ラジオ、本などについて取材、執筆。全国の美術館と温泉をめぐり歩いている。

 

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