"技術志向"がNASAで通用しない理由 NASAジェット推進研究所内「プチ失業」からの学び(新技術編)

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過程を大事にする日本文化の一長一短

もちろん、新技術の価値が評価されないわけでは決してない。ただ、「新しい」こと自体が価値にはならないということだ。では、何が新技術の価値として認められるのか。次のふたつのうちのいづれかだ。ひとつは今までは実現不可能だった有用な機能を可能にすること。もうひとつは既存の技術と同じことをより安価に、あるいはより高い信頼性でできるようにすることである。

だから、僕は自分の成果物のマネジャーへの売り込み方を完全に間違えたのだ。それがいかに優れた技術を使っているかではなく、それがいかなる機能を実現可能にし、そしてその機能がいかにNASAの火星ミッションにとって有用かを強調したプレゼンテーションをするべきだったのだ。

もしかしたらお国柄もあるのかもしれない。日本人は、技術者でなくとも使われている技術を気にせずにはいられない民族であるように思う。結果だけではなく、過程を大事にする民族とも言えよう。たとえば一昔前に「ファジイ制御」が用いられた家電がはやったことがあった。「○○技術搭載」というCMの宣伝文句をよく聞く。僕の分野の日本人による学術論文は「○○法を用いた」という枕詞がついたタイトルのものが多い。文字の書き順を学校でみっちり教えたり、アニメのヒーローの必殺技の一つひとつに名前がつけられていたりするのも、根底には同じ民族性があるように思う。

もちろん、日本の技術志向がアメリカの目的志向と比べて悪いわけでも劣っているわけでもない。新技術や高度な技術への強い関心が、これまで日本が先進工業国として成功してきた土台となってきた面も多分にあるだろう。過程を大事にする価値観は決して捨てたものではない。今回執筆した本で何度も繰り返したが、僕はアメリカのあれやこれやを日本のものと比較して、その優劣を語ることに興味はない。なんでもアメリカ式をまねるべきとは決して思わない。ただ、価値観の違いがあるのみだ。

だが、僕のケースのように日本人がアメリカの職場で働く場合や、日本企業が製品を海外に売り込む場合には、日本式のやり方を持ち込んでもうまくいかないことが多くある。このことは書くに値する。

たとえば、洗濯機にファジイ制御が使われていようとロバスト制御が使われていようと、大雑把なアメリカ人が気にするとは思えない。ちゃんと洗えることだけが問題なのだ。ロケットに固体燃料を使うか液体燃料を使うかが問題ではない。安く確実に宇宙まで運ぶことのみが問題なのだ。悟空がカメハメ波を使おうが元気玉を使おうが関係ない。フリーザを倒すことのみが問題なのである。

 

(自分売り込み編)に続く

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小野 雅裕 NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)技術者

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おの まさひろ

1982年大阪府生まれ。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程修了。2012年より慶應義塾大学理工学部助教。2013年より現職。火星ローバー・パーサヴィアランスの自動運転ソフトウェアの開発や地上管制に携わるほか、将来の宇宙探査機の自律化に向けたさまざまな研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。

ブログ: onomasahiro.net/
Twitter: @masahiro_ono

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