コロナ後に「活躍できる人」「できない人」の差 必要なのは「未来を語る人」ではない

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例えばコロナショックに関しても、その都度、課題が変化していきました。ウイルスが発生した初期のころは、マスクは感染者がウイルスを他者にうつさないために使われるものだったので、あくまで感染者のみがマスクをすることが推奨されていました。しかし、感染が拡大して無自覚の感染者が多くなり、知らないうちに感染したりさせたりするリスクが増えると、今度は「全員がマスクをして、感染拡大を封じ込めよう」という新たな課題が設定されます。

やがて治療薬が完成したら、今度は医療崩壊させないためにも各自で免疫力を上げていくための課題が生まれるかもしれません。このように、これからは向かうべき方向性を示すコンパスがつねに変わるつもりでいたほうがいいのだと思います。

状況を認識し、最も適切なコンパスのもとで議論する

そこで僕たちにとって大事なのは、今置かれている状況や段階をしっかりと認識したうえで、お互いのコンパスを持ち寄り、“誰のコンパスが僕たちにとって1番大事なコンパスか”をしっかり確認し合い、最も適切なコンパスを持つ人のもとで意見を募って議論していくことだと思います。

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議論をするときも、ひたすら「俺のコンパスはこっち!」と主張するだけではなく「なぜこの方向だと思うか」という前提条件をきちんと添えて発信しましょう。

また、コンパスを持つ者同士が意見交換し合い、もし自分のコンパスより相手のコンパスのほうが正しいと思えたときや深く共感できたときは、素直に認める柔軟性が必要です。そのうえで、リーダーをサポートする役割に回ればいいと思います。

例えばアップル創業当時の社員だったスティーブ・ウォズニアックは、「スティーブ・ジョブズは水平線の先に何があるかは見えているが、そこまで向かうための最初の1歩がわからなかった」という主旨のことを語っています。

つまり、たとえすばらしいコンパスを持っているジョブズでも、たった1人で目的地へ向かうことはできなかったのです。ウォズニアックはそんなジョブズの最初の1歩を具体的に提案できる人材であり、彼らのような組み合わせや、彼らを支えるチームの存在があったからこそ、ジョブズはパーソナルコンピュータにおける革命を起こせた、とも言えるのです。

大事なことを以下に3つまとめます。

1. コンパスが示す方向さえ変化し、進む段階によってさらに変化することを認識すること
2. コンパスを持つ者同士で柔軟に議論し合い、それぞれのコンパスの精度を高め合っていくこと
3. コンパスを持つリーダーが決まったら、チームで補い合って進み、試行錯誤していくこと

1度コンパスを決めたらそのまま固定するのではなく、1〜3をつねに繰り返しながら、その都度適切なコンパスを選び直し、段階に合わせて方向性を微調整し、また議論を重ね、全員で形にしていくことを忘れずに行っていきましょう。

尾原 和啓 ITエバンジェリスト

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おばら かずひろ / Kazuhiro Obara

1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレートディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザーなどを歴任。著書に『モチベーション革命』『アフターデジタル』(共著)、『ザ・プラットフォーム』『どこでも誰とでも働ける』『IT ビジネスの原理』などがある。

 

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