香港市民を救え!開き始めた台湾の保護傘計画 人権派弁護士や牧師が活動家の自活を支援

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2020年1月、台北市で「保護傘香港有限公司」という企業が登記された。資本金は500万台湾ドル(約1800万円)。登録された事業内容は日用品の販売から飲食業、国際貿易までと多岐にわたる。

実際に会社の公式サイトを見てみると、「主権を取り戻す」という意味の「光復」という文字がプリントされたTシャツ数種や、香港民主化デモの様子を収めたドキュメンタリー写真集が販売されている。

創業の背景にあるのは、香港の人権派弁護士・黄国桐(ダニエル・ウォン)氏(70)が提唱した保護傘計画だ。保護傘計画の目的は、台湾に逃れた香港の活動家の自活を支援することである。

自由と平和のシンボル「レノンの壁」

4月19日には台北市に「保護傘」という名のレストランも開店した。スタッフは香港人。台湾に逃れてきた香港人を雇用することで、彼らの自活を支援している。レストランの入り口には、香港の民主化運動の象徴となったキャラクター「カエルのペペ」が飾られている。

ペペは右目をおさえている。この右目を覆うポーズはデモ参加中に警察に右目を撃たれた女性を模し、民主化運動への連帯の意を示すものだ。隣には台湾メディアによる香港民主デモのノンフィクション本『烈火黒潮』が並び、カウンターには小さな「レノンの壁」も設置されている。

レノンの壁は自由と平和のシンボルだ。その起源は冷戦下のチェコスロバキアで、ジョン・レノンの死(1980年)を知った若者たちが壁に哀悼のメッセージを描いたのが始まりだ。壁には共産主義体制への反対と自由への願いがこめられており、それが近年、香港でも若者の手によって作られていた。保護傘レストランのレノンの壁には、香港デモ参加者たちへの客からのメッセージが寄せられている。店には大きく「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、革命の時代だ)」というスローガンが掲げられていた。

こうして小さいながらも保護傘、つまり「香港を守る傘」は開いた。「傘の下にいる者」と「傘をさす者」、すなわち台湾に逃れて来た香港人と、それを保護する者たちが慎重にその一歩を踏み出したのだ。

傘をさす人はほかにもいる。ゴシック式の赤レンガ建築が有名で、台北市の観光地として名高い済南教会。同教会の黄春生牧師は、長年にわたり人権運動家を庇護してきた。もちろん香港民主化運動の参加者も例外ではなかった。

2019年、黄牧師は台湾に流れ着いた「香港からの旅行者」のために、教会内に隠れ家を用意した。旅行者のために無償で衣食住を提供。必要であれば病院で受診させた。教会には精神科医がおり、傷ついた旅行者を無料で診察した。

黄牧師は「台湾は聖書に登場する『逃れの町』なのかもしれない。香港人の傷はそう簡単に癒やせるものではないだろう。せめてこの教会だけは彼らの安らぎの場でありたい」と言う。

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