セブンは「単なる小売業」から変わっていく 鈴木康弘氏が明かすオムニチャネル戦略

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――実験を通して見えてきたことは。

昨年12月、そごう・西武で扱っている高級和菓子を通販サイトで注文すると、コンビニの店頭で受け取れるというサービスを広島県内で試験的に行った。予想以上に売れたのにも驚いたが、ネット注文に限ったにもかかわらず店員に直接注文をお願いする顧客が多かった。ネットの苦手な高齢者かと思いきや若い人も一定数いたことは、実験で初めてわかった。

これを受けて、4月からは全国のセブン-イレブンで書籍の店頭受注サービスを始めた。一部の店舗にはタブレット端末も配備し、店員がお客さんへ積極的に声がけをする。どんな反応をするのか、どの程度効果があるのか確かめるためだ。話しをしながら、「今度はお孫さんにこんな商品を送ってはいかがですか?」なんて接客ができる。イトーヨーカ堂やそごう・西武のように大きい店舗にもタブレットを配備したい。

店頭でもネット上でも、一人ひとりにあった商品提案ができるよう力を入れていく。そのために購買履歴のほか、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などあらゆるデータを分析する。

物流も情報も最適化

――グループの全商品を店頭で受け取れるようにするには、物流面の統廃合も欠かせない。

オムニチャネルの重要拠点となるコンビニエンスストア

すでにe.デパート(セブングループ百貨店の通販サイト)ではセブン-イレブンの物流を使っている。今後はセブン-イレブンに書籍を届けているトーハンの出版物流を活用し、グループ各社の商品も全国に配っていこうと考えている。返品についても、帰りの配送車を利用するなど検討していく。セブン-イレブンの新店にはすでに店頭受取荷物の保管場所を設け始めた。

昨年建設した埼玉県久喜市のネット専用物流センターには、大阪にあった赤ちゃん本舗の物流機能を3月から移した。今後も順次集約して最適化していく。通販大手のニッセンホールディングスも傘下に入ったので、西日本はニッセンが持つ物流拠点もうまく使っていきたい。

――日本の宅配業界はかなり進化しているのではないか。

4月から宅配業者が軒並み値上げをした。われわれは規模があるのである程度交渉ができる。ヤフーショッピングや楽天はそこまで規模がないので、値上げに対応せざるをえない。宅配業者の値上げはネット事業の足かせになる。そうすると宅配を利用するのがいいのかという疑問が生じる。

また、宅配の弱点はけっこうな比率で受取人が不在だということ。女性の社会進出でこれからもっと不在が増える。だったら都合のいいときに店舗に商品を取りに来てもらった方がコストは安く済む。

あまり知られていないが、本などは地区によってアマゾンよりも早く届けられる。ただ、店舗に届けるのはもう少し時間がかかっているので、今後無駄を省いてより早く届けられる仕組みを作っていく。

――以前にも”ラスト・ワンマイル”の存在としてコンビニは注目されていたがうまくいかなかった。

高齢化や核家族化、共働きの増加という社会変化のなかで顧客はこれから(ラスト・ワンマイルという存在を)必要とするのではないか。そして、オムニチャネルは意外と重要な社会インフラになるはずだ。

ネット消費が伸びてきたといってもそれは若い人たちの話。そうした若い人たちのシェアをアマゾンとかが争っている。実は高齢者の方が一人当たりの消費額は多い。しかも、そのシェアをどこも争っていない。無風状態だ。ネットで注文して重い荷物が近くに届いてありがたいのはお年寄りだが、ネットが使えないから利用できない。近くのセブンから届けもらえたら便利なはずだ。

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