大戸屋がコロワイドの株主提案を撃退した真因 正念場はむしろこれから、業績回復が急務

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実際にはコロワイドはIFRS(国際会計基準)を採用しているため、のれん代を費用に計上しなくていい決まりになっている。ただ、コロワイドの財務状況を見てみると、自己資本が388億円に対し、これまで買収した企業ののれんが717億円もある。のれんが毀損すれば財務への影響は大きく、これ以上のれんを増やすのは危険な状況だ。

今期も業績悪化は避けられない

株主総会の「正念場」を乗り切った大戸屋の窪田社長は、議決の結果「よって第3号議案(コロワイドの株主提案)は否決されました」と宣言する際に、声を震わせ、安堵の表情を浮かべた。ただ、本当の「正念場」はここからだ。

株主総会当日に記者会見する窪田健一社長(記者撮影)

近年、右肩下がりが続いた大戸屋の業績は、2021年3月期はさらに大幅に悪化する公算だ。新型コロナウイルスの影響で、4~5月の既存店売上高は前年同月比で4~5割減少という壊滅的な打撃を受けた。夏場以降回復するにしても、今期も大幅な赤字になることは避けられない。『会社四季報 夏号』では、22億円の最終赤字と、赤字幅拡大を予想している。

すると、約32億円の自己資本は10億円程度まで毀損する計算になり、株主への配当やファン株主が楽しみにする株主優待も、内容を維持するのが難しくなってくる。仮にそうなった場合、大戸屋の株価は下落し、「のれん代」が縮小して買収しやすくなるだろう。

これ以上の業績悪化を食い止め、反転攻勢を成功させなければ、遅かれ早かれ大戸屋の経営は立ちゆかなくなる。店内調理や経営の独自性を守るためにも、現経営陣を支持したファン株主たちに報いるためにも、業績回復が何より求められる。

外圧をいったんはしのいだ大戸屋だが、むしろこれからが茨の道だ。今回は賛成に回った個人株主も、次はシビアになっていくだろう。

佐々木 亮祐 東洋経済 記者

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ささき りょうすけ / Ryosuke Sasaki

1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年に入社、外食業界の担当や『会社四季報』編集部、『業界地図』編集部を経て、現在は半導体や電機担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki

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