安倍政権は「ダボス公約」を実現せよ アベノミクス新年度の課題(3) 竹中平蔵

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政府側にできることは二つ。財政を使った短期的な需要コントロールと、供給サイドを強化する中期的な成長戦略だ。短期的な財政政策として、今年度に5.5兆円の補正予算を組んだ。消費税率が5%から8%に上がり年間約8兆円の税収増になる。つまり、補正予算では民間から吸い上げた8兆円のうち3分の2を戻すということ。

8兆円を吸い上げて8兆円の補正予算を組んだら、何のための増税かわからない。逆に補正予算が1兆円ぐらいだと、マイナスの影響が大きい。3分の2の戻しはなかなかよく考えられている。

日銀は、マイナスの影響が予想の範囲に収まっているのかを踏まえ、次のアクション(追加緩和)を判断しなければならない。

財政再建の計画を示せ

──ダボス会議で首相は法人税減税にも意欲を示した。しかし、中長期的な財政再建という課題もある。

アベノミクス第2の矢である機動的な財政政策には、短期的な財政拡大と中期的な財政再建という二つの意味がある。後者の財政再建では、どれくらいの社会保障改革を行い、消費税率を何%まで上げるのかが、国民に対して示されていない。それをやっていくのが経済財政諮問会議の重要な役割だ。

財政再建の王道は決して増税ではなく、歳出を増やさないこと。経済を活性化させることだ。歳出削減は政治的にほとんど不可能だが、歳出の抑制はできる。実は、そのやり方で2002~07年に、日本の基礎的財政収支の赤字は、28兆円から6兆円まで縮小した。増税もしていない。この事実を財務省は語らない。07年ぐらいまで一般会計の歳出は80兆円台前半だったが、気がつくと20%ほど増えて今や100兆円近い。これは増えすぎだ。

──具体的な抑制策は。

歳出増のほとんどは社会保障で、今のままだと消費税率をいくら上げても足りない。高齢者の医療費の自己負担の引き上げなどを本気でやらないとダメだが、まだ手がついていない。第2の矢の後者(財政再建)でプランを示さないといけない。国民もそれに対して覚悟する必要がある。

──6月に成長戦略第2弾が出される予定だが。

今後の方向性はダボス会議のスピーチで示された。法人税減税については、政治のリーダーシップでやらないといけないだろう。特区を通じて岩盤規制を突き崩し始めた姿を見せていく必要もある。ただし、首相のパッションが霞が関の官僚や政策関係者に十分伝わっていない。それをどう乗り越えるか。アベノミクスの正念場だ。

(撮影:ヒダキトモコ =週刊東洋経済2014年4月26日号〈21日発売〉核心リポートに一部加筆

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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