モバイルが新聞を凌駕、英国で進む広告大移動 スマホ・タブレットがメディアの主役に

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ちなみにネット経由の視聴が増えているからといって、電波やケーブルを通じたテレビ放送が死んだわけではない。1日のテレビ番組を1~2時間ずらして放送するタイムシフトチャンネルが複数あるため、お目当ての番組の放送開始時間までに帰宅できなくても、番組を最初から見ることができる。こうした工夫が奏功し、番組視聴の王道は、現在でもテレビだ。

視聴率調査専門会社のBARBによると、13年の英国民の平均的なテレビ番組視聴時間は3時間52分。ロンドン五輪開催の12年(4時間1分)より減少したものの、10年前よりは8分増えている。その大部分(98.5%)はテレビの前に座っての視聴だ。

ネットフリックス上陸も後押し

ラジオもモバイル機器のアプリに変身した。お気に入りのチャンネルのアプリをスマホやタブレットに入れておき電波ではなく、ネット経由で聴く方法が定着しつつある。

アイプレーヤーでは、最近、テレビ放送に先行して一部の番組を流すようになっている。若者向けデジタルチャンネル「BBC3」は、来年からアイプレーヤーのみでの配信となる。若者たちは今後、ネットだけで番組を見るようになるというのが経営陣の判断だ。

もちろんネット視聴の増大に貢献しているのは、テレビ局だけではない。人気ドラマ「ハウス・オブ・カーズ」を配信する米オンデマンドサービス「ネットフリックス」が12年1月に英国でのサービスを開始したことも拍車をかけている。

「日本の放送は地上波ネットワークが津々浦々をカバーしており、ネット放送へのシフトは起きない」「情報を一覧できる新聞紙の優位性は今後も変わらない」──日本のメディアの中では、こう信じている経営幹部がいまだに主流だ。自らネットに飛び込むことで成長メリットを享受する英国のメディアから学ぶべき点は多いのではないか。

(週刊東洋経済4月26日号〈21日発売〉核心リポート02に一部加筆)

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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