歴史は科学ではない。基本的に文学だ--『父が子に語る近現代史』を書いた小島毅氏(東京大学大学院人文社会系研究科准教授)に聞く

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 寛政の改革あたりから、日本と中国は対等、もしくは日本が優れているという意識が出てくる。その点からは、この二つのコンセプトはメダルの表、裏の関係ともいえる。

--「日本」は中国や朝鮮に対抗して生まれた……。

日本は最初から日本であったわけではないということ、これは30年以上前に網野善彦が声を大にしておっしゃって、多くの読者を獲得したものの、残念ながらまだ一般にはそれほど認知されてはいない。

むしろ、逆に司馬遼太郎のような「日本の国づくり」というコンセプトの書き物のほうが一般の琴線に触れている。それによって日本人意識なるものを再生産する仕組みが出来上がってしまっている。

--司馬史観が大きな影響を与えていると。

司馬遼太郎個人が問題だとは思っていない。司馬は小説家として、ある独自の歴史認識を持っている。

ただし、いかんせん彼が小説を書いた時点で知りえた歴史研究の状況、そもそも明治以降の日本の発展についてのものの見方が、日本の欧米に追いつけ追い越せであり、中国や朝鮮はそのための道具という見方になっている。

司馬は優れた人なので批判するつもりはない。彼を一種の錦の御旗として掲げている一群の人たち、そうした頭の固い人たちがいまだにいて、彼らにとって司馬のナラティブが都合のよいものなので、利用されている。

今回のNHKドラマ「坂の上の雲」では、脚本が最近のものの考え方の変化を受けて、原作とはかなり変わってきている。日清戦争のところで、朝鮮の問題を朝鮮のほうから見るような、そうすることに気づいている日本人を登場させている。

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