日本の「交通革命」、欧州のMaaSにはほど遠い コロナ禍でテレワークやマイカー通勤が浸透

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大都市の鉄道については、テレワーク普及による利用者数減少に合わせた、効率的な運行を目指すことになろう。その場合、首都圏は京阪神、京阪神は中京や札幌や福岡など、輸送規模の小さい都市圏の対応が参考になると考えている。利用者数に対してインフラに余裕がある状況なので、有料座席指定車両の組み込みがしやすくなるなど、これまで困難だったサービスの実現も可能になろう。

一方以前から経営合理化を徹底しており、必要に応じて補助金も受けていた地方の交通事業者は、マイカー移動への流出もあって限界的状況にあると想像する。上下分離方式を導入すれば、上側にあたる交通事業者の負担が軽くなり、下側を単一組織とすれば交付金や補助金の手続きが楽になるだろう(2020年5月14日付記事「鉄道『上下分離方式』はコロナ禍の苦境を救う」参照)。

流行語「MaaS」の今後は?

もう1つ、「MaaS(Mobility as a Service=サービスとしての移動)」も重要なツールになると筆者は考えている。

昨年、MaaSは流行語のような立ち位置にあった。経済メディアには「MaaS関連銘柄はこれだ」などといった文言が踊り、買い材料に乏しい小規模な上場企業がこの4文字に言及さえすれば、期待先行で株価が上がるなどという例が見られた。しかしコロナ禍で移動そのものが激減すると、MaaSの話題も潮が引くように聞かれなくなった。

でもそれは悪いことではない。浮ついた気持ちで参入した人々が姿を消したからだ。MaaSにおいては新型コロナウイルスがマスクの役目を果たし、本気で都市や地方のモビリティをよくしたいと考える事業者が残った。

事実、3月25日には東京メトロが「my! 東京MaaS」の開始、5月20日にはJR東日本が「MaaS・Suica推進本部」の新設を発表するなど、最近は大手交通事業者の動きが目立っている。小田急電鉄はMaaSアプリ「EMot(エモット)」の実証実験を12月末まで延長する。

コロナ禍でのMaaSの役割は、ソフトウェアだからこそできる、乗りたくなる仕組みの構築だと考えている。

大都市では、感染防止の観点から利用が増えている自転車などのパーソナルモビリティとの連携が大切になりそうだ。雨の日は鉄道に切り替えたりする人々を着実に取り込むためである。また経路検索時に駅や列車の混雑状況案内を連携させれば、状況に応じて移動手段を変えたりできる。こうしたサービスも利用促進につながるはずだ。

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