日本がコロナ2波に勝つ科学的で現実的な戦略 鎌江東大教授が説く社会的価値のある医療政策

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また、私はキヤノングローバル戦略研究所のコラムで試算を示しているが、毎日の新規陽性者数の移動平均を求めて予測を行えば、多少のタイムラグはあるが、遅くとも緊急事態宣言の発出後の早期に、新規感染者数が減少傾向に転じていることが判明したはずだ。そのあたりの予測を逐次、丁寧に行えばもっと早く宣言の解除が可能だったのではないだろうか。

感染抑止と経済再開へ、明確な戦略と議論の公開を

――日本では専門家会議の議事録をとっていなかったことがたいへん問題だと思います。開かれた議論の土台すら提供していません。

議事録がないのは奇妙だ。専門家は自らの専門的知識に責任をもって発言するのが役割だから、通常、議事録を残したら困ることはないはずだ。感情的になる議論もあったとの話が聞こえてきたことにも違和感がある。これまでに例をみない感染症への不安の中で、緊張感が張り詰めていたのであろうが、それでも冷静に科学的な議論をするのが専門家の役割だ。

専門家会議のメンバーは、ほとんどが感染症専門家のようだが、診断検査のサイエンスや、EBM(Evidence-Based Medicine;根拠に基づく医療)のエキスパートが選ばれていないようにも見受けられる。

病院の一線で活躍する臨床医師の中にも、EBMの観点から、インターネット上でPCR検査の正確性に関する科学的な情報発信をしている専門家がいる。そのような人が専門家会議のメンバーに入っていないとしたら改善すべきだ。

また、緊急事態宣言による制限解除のロードマップを見ても、専門家会議の提言は、西浦教授の感染予測の疫学モデルに依拠した接触8割削減論と経済解除推進論の政治的妥協の産物のように思えた。今後、経済活動をできるだけ維持しながら感染抑止をする検査戦略をどうすべきかの視点と論議を欠いている。第2波対策では、そこが最も重要だ。

大阪府の吉村洋文知事は、自らリーダーシップをとって独自の専門家会議を招集して、国に先駆けて府民にわかりやすいロードマップを示した。しかし、国では、専門家会議や諮問委員会といった仕組みはあっても、結局、その意思決定プロセスの透明性が低く、誰がどのようなリーダーシップをとっているのかが国民の目にははっきりしていない。そこは、これから第2波に備える国の危機管理の課題だ。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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