「ちきゅう」の営みは地球の縮図だ! 海洋研究開発機構の地球深部探査船に乗ってみた①

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コアから取り出される貴重な水の分配は「水利権の争奪戦」とも称され、船内公用語は英語で、船内で行われる卓球大会は「ワールドカップ」と呼ばれる。

この船がちきゅうという名前なのは、必然ではないか。

成果は全世界の共有物

ちきゅうのいいところは、研究設備が充実していて船上でほとんどの成分分析ができること、それの大半を確かな腕を持つテクニシャンがやってくれること、乗船中に結果が出ることだ。

「それから、その結果は乗船者のものではなく、全世界の共有物であり、だからこそグローバルにも時系列的にも連続的な研究ができるところです。これをどこかひとつの研究所でやろうったって、無理ですよ」と、文句も言いつつやっぱりちきゅうが誇らしい高井さんなのだった。

ところで高井さんは生物、もっときちんというと深海など過酷な状況で生きる微生物の研究者である。このあたりは『生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る』(幻冬舎新書)に詳しい。生命の起源を探るという究極の目標を掲げ、ひとたびちきゅうに乗り込めば、コアの中に微生物を探し出す。

だから、コアの運搬に時間がかかり、大気中の微生物が混ざり込むことを嫌う。今か今かと水揚げされたコアの到着を待つ時間は、ほかのどの研究者よりも長く感じることだろう。あのチンチン電車へのいらだちは、研究者魂の表われなのだ。「まあ、フレッシュなもの必要だという認識が共通化されてきたら、運用を変えていけばいいんです」。そう言って、おもむろに説明用のパネルを取り出す。

「仮に、コアで微生物が一匹生きているのが見つかっても、その環境で生きていたとは言えません」。この一匹というのが、くせ者だ。「哲学的な話になりますが、1匹だと、生きているか死んでいるか、わからないからです」。

人間は約80兆個の細胞でできているが、そのうちの100万個くらいの細胞は死んでいる。生きているのに、死んでいる細胞がある。これがゆらぎである。

人間は80兆個も細胞があるから100万個くらいのゆらぎは気にしなくていいが、これが微生物となると話が変わる。なので、ある深さである環境である微生物の生存が確認できたと主張するには、1立方センチあたり1万匹は見つけないとならないのだという。

「でも、検出技術が上がってきたので、100匹でもいいんじゃないかと思っています。今、IODPの基準は1万匹ですけど、100匹に変えていこうとしています」

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ここは船の上なのである

話に圧倒されてラボを出た。目の前に広がる景色を見て、自分が船の上にいることを思い出した。あまりに立派な研究施設であったため、これが船の一部であることを忘れていたのだ。

ここまでのところで、すっかり話が長くなってしまった。JAMSTECの話は、まだまだ尽きない。第2話は5月5日に公開する予定だ。

(構成:片瀬京子、撮影:尾形文繁)

成毛 眞 元日本マイクロソフト社長、HONZ代表

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なるけ まこと / Makoto Naruke

1955年北海道生まれ。元日本マイクロソフト代表取締役社長。1986年マイクロソフト株式会社入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、書評サイトHONZ代表も務める。『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『アフターコロナの生存戦略 不安定な情勢でも自由に遊び存分に稼ぐための新コンセプト』(KADOKAWA)、『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』(SB新書)など著書多数。

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