(第27回)いつの間にかのスリム法・その5

山崎光夫

 「あなたのお陰です」
と妻が食事中に言った。
 何の話かと私は耳を澄ませた。
 「食事をいつも一緒にしているお陰で健康を維持できています」
と殊勝に言う。
 これはどんな風の吹きまわしかと少し我が耳を疑ったが、妻は“正気”のようだ。
 主婦の食事はついついいい加減になりがちだという。
 専業主婦はふつう、朝は家族の食事を用意して、あわただしくみんなが出かけたあと1人食べし、昼はテレビを見ながらつい簡単に済ませてしまうことが多いという。人の目がないとどうも手を抜いてしまうらしい。それが数日なら問題はないが、数年つづくと体調に影響してくるのは道理ではある。

 妻は結婚以来ほとんど体形が変わっていないという。2子をもうけているが変化はない。姉たちは、痩せた、太ったと一喜一憂しているのに、妻ばかりは、この話題に無縁である。
 私は仕事柄、家に居る「居業」で、取材や講演以外にはほとんど外出せず、したがって、常に家で食事する。
 これは、
 「亭主元気で外がよい」
の真反対だから、主婦のストレスは相当なものだと思う。嫌われても当然だし、常々申し訳ないとも思っていた。  ところがさにあらず。意外にも感謝されてしまった。
 家に居つづけていることが少しは家の者の役にたったと言えるだろう。

 しかし、ここに「いつの間にかのスリム法」の核心部分があるような気がする。
 すなわち、1人食い機会の防止。1人で食べると無言の行になり、早食いにもなりがちである。唾液の分泌も当然少なくなるから消化も悪くなる。
 それに1日3度の食事。相手がいれば、手抜きもできず、お互い時間を合わせて食べる。
 20、30代は生活の時間も不規則だったが、中年を過ぎてからは、ほぼ定まった時間に、同じような分量の食事を摂っている。また、就寝前、2~3時間からは何も食べない。誰も用意しないからである。

 私が病気らしき病気もせずに、また、体重を減らしたのも、規則正しい食事法にあったのではないかと思い至った。当たり前といえば、あまりにも当たり前である。が、この当たり前が案外実行できないのが現代人ではないかと思える。
 世に、バナナダイエットやこんにゃくダイエット、パイナップルダイエットなどがバブルのように現われては消えた。安直に正しい「ダイエット」はできない。
 そうかと思うと子どもの「個食」がある。テーブルで1人カップ麺を食べている図は、ペットの犬猫以下ではないか。
 何のために食事をするかをもう一度見直す時期にきているようにも思える。
 『食』の字を解体すると、「人を良くする」となる。人を良くも悪くも変えるのは食事である。
 私が思うに、食事の基本は、
 「食費はきりつめても、食事時間をきりつめるな」である。
 それを妻に話すと、すかさず、
 「外出時間はきりつめないで」
ときた。やはり、「亭主元気で外がよい」が本音のようだ。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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