楽天家は、選手寿命が長い マスターズでの失敗は、次につながる

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ゴルフの祭典、米国のマスターズが終わると、日本の男子ツアーも開幕、今年はどんなシーズンになるんだろう、と心弾むのは毎年のことです。自分はまだまだ現役、ハワイ、沖縄で体作りと打ち込みは十分ですから、今年もきっと何か話題を作りますよ。

特に今年は冬季オリンピックをテレビで見て、刺激を受けて闘志新たになりましたね。言うまでもなく、オリンピックは4年に1度のビッグイベント。そのプレッシャーは想像以上のものがあるだろうと、選手になったつもりでハラハラドキドキ、スキーやスケートの醍醐味を満喫しました。

反面、選手は、そのプレッシャーをどう克服してるんだろうと余計なことを思ってたけど、選手は「練習を十分するしかないんです」、たぶんそう答えるだけだろなと思いましたね。

ただ、いい選手はプレッシャーとお友達になる練習の工夫が上手なんですよ。ゴルフを例にすると、友人の一人に、アマチュアにしてはパットのえらく上手な人がいましてね、「どんな練習しているの?」って聞いたら、部屋の片隅に置いてあるパッティングマットで、1メートルと少しほどの距離を10回連続で入れてから寝ることにしてるんだそうだ。ゆっくり時間があるときは楽に入るそうだけど、体が疲れているとき、次の朝が早いときなど、7発目、8発目となると結構なプレッシャーがくるらしい。それを思えばコースの1メートルは楽なものと言ってたけど、確かにそのとおり。

プロゴルファーも、まあ「いい選手は」と言ってもいいかもしれませんが、日本オープンの1番ティーグラウンドも、獲得賞金がツアーに加算されない小さなトーナメントでも、試合に同じ緊張感を持って臨んでるんですね。

いや、つねにそうしてないと、体と心が楽することを自然に覚えてしまうんです。楽をしたがる癖をつけると、「今回は参加するだけでいいんだから、気楽にプレーするか」となる。とにかく、楽に過ごしたいのは人間の本能、それを自分で許してしまうと、大舞台だからといって心を入れ替えていいプレー……は不可能です。優勝争いで、ここ一番のショットやパットのとき、その、楽をしていたツケが回ってくるんです。大舞台の活躍は日頃の心構えが成否の分かれ道です。

と言いながら自分も、全英オープンや全米オープンに比べると、マスターズではメダルが取れたと言える試合はありません。世界の名手たちの集まるマスターズ、そのタイトルに意識過剰なせいか、練習日から戦闘開始状態、パトロンたちも13番のパー5など、セカンドでアイアンでも持とうものならブーイングですよ。練りに練ったオーガスタのゲームプランも毎年13番で水の泡でした。

「よし、来年こそは」と、このマスターズの失敗が選手寿命を延ばしてくれましたね。プロゴルファーは楽天家に限ると思ってます。

週刊東洋経済 4月19日号

青木 功 プロゴルファー

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あおき いさお

1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エージシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。

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